球場に備え付けられているスタットキャスト。マイナーリーグにも。写真:AP/アフロ

 メジャーでは「データ革命」が着々と進んでいる。前回【ビッグデータ野球隆盛、メジャー求める選手とは​】で(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54570)紹介したアスレチックス、パイレーツ、アストロズといったチームの躍進は、その証左だ。

 その波は確実に日本にも訪れており、今シーズンの段階で12球団中11球団がメジャーの採用する「スタットキャスト」システムのひとつ「トラックマン」を導入している。

 ただ、その活用はと言えば、大きな課題が残っている。日本の野球界ではリーグ3連覇を達成した広島カープが「トラックマン」を導入していない唯一のチームであることは興味深い。

 日米で活躍し、現在サンディエゴ・パドレス顧問としてスカウト会議などにも参加する斎藤隆さんは、現在の日本球界でデータを活かすために、これから必要なことを「人材の育成」と指摘する。(スポーツライター、田中 周治)

今はまだ選手も監督も使いこなせていない

 昨今話題に上る「トラックマン」とは、ボールをトラッキングする弾道測定システム(冒頭の写真)。スポーツ界の応用としてはゴルフのヘッドスピードなどを図る用途として普及した。野球においては「スタットキャスト」の一部がトラックマンである。

 投手の投げたボールのスピードはもちろん、回転数や回転軸の角度、バットに当たった後の打球速度や打球角度、打球の飛距離も測定できる。

 たとえば、投手にとっては、回転数や回転軸の方向など自分の投げたボールのデータを知ることによって、より質の高い投球を目指す上で確かな指標とすることもできる。

 では、実際の選手はどうしていたか。斎藤さんに「現役時代にトラックマンが導入されていたら、より投手として成長できたと思いますか?」と聞くと、その答えは「ノー」だった。

「(データを)使いこなせていなかったと思います。それは前回も言ったように指導者がいないから。たとえばカーブの回転数を上げる取り組みをしたとしましょう。回転数自体を上げるトレーニングは選手個人でも可能かもしれません。実際、腕を真上から振り下ろすように投げればより回転数が上がるカーブになりますから。でも、そのカーブをストレートと同じ腕の振りで投げなければ試合では使えません。そのためには技術的なアドバイスが必要になってくると思います」

 データ上の数字を追いかければその方法はいくつかある。しかし、横投げの投手にいきなり上から投げたほうがいい、とは言えない。斎藤さんは現在の状況を「ファッション」に例えてくれた。

「様々なデータを洋服に例えるなら、スタイリストのような存在が欠かせないわけです。どんなに素晴らしい洋服が揃っていても、自分に似合うものを上手に組み合わせて身につけなければ、オシャレとは言えません。データをコーディネートする力。それが現在の日米のデータ野球の現場で求められている能力だと思います」