世界的なビーチリゾート、タイのプーケット島で、知る人ぞ知る「奇祭」が開かれていることをご存じだろうか。宗教者たちが顔や体に刃物や串を突き刺し、血を流しながら練り歩く。この危険きわまりない過激な祭りは、実は「ベジタリアンウィーク」のイベントだ。想像の上をいく東南アジアの多様なベジタリアンライフを紹介する。(JBpress)
べジタリアンライフはアジアで生まれた
10月8日から、タイやマレーシアなど東南アジアの華人世界で「九皇爺誕」が始まった。英語では、「ベジタリアンウィーク」と呼ぶ。10月17日までの9日間、肉食を断ち菜食を行うことになる。
「九皇爺誕」は、華人世界の民間信仰である道教にもとづく祝祭だ。信仰の対象は「九皇大帝」という神様。北斗七星に補弼(ほひつ)二星を加えた「北斗九星」を神格化した神様である。その生誕日にちなみ、九皇爺誕は太陰太陽暦である農事暦9月の一番はじめの9日から始まる。
九皇爺誕は、中国南部の沿海部の福建地方からの移民とともに、東南アジアの華人世界に受け継がれてきた。タイでは、これを「キンジェー」と呼んでおり、華人世界の道教信仰を超えた拡がりを見せている。
「キン」とはタイ語で食べるという意味。キンジェーの「ジェー」は漢字の「齋」である。齋戒沐浴の「齋」だ。この2つを合わせた「キンジェー」で、「肉食を断ち、菜食を行う」という意味になる。肉や魚、卵や牛乳だけでなく、ネギや香菜(パクチー)など刺激性の香辛料も食べない。祝祭期間中のベジタリアンライフの実践である。
今回は、タイの「キンジェー」を取り上げて、東南アジアのベジタリアンライフについて紹介したいと思う。現在の日本では、カタカナ表現の定着に現れているように、ベジタリアンというと先端的な欧米風ライフスタイルという通念が一般にできあがっているが、菜食生活のべジタリアンライフは、もともとインドを中心にしたアジアで生まれたものである。