「『外国人観光客が増えすぎても』という意見は確かにあります。岩村城下町は観光地である以前に、町の人たちの生活の場です。生活者の車両通行もあるので、大勢の団体客を受け入れるには不向きでしょう」

 インバウンドに詳しい専門家によると、「政府はこれからもどんどんビザを緩和させる方針」だという。最近の国の施策は、ますます「数字稼ぎ」に傾斜しているように見える。だが、観光客の数を追えば、町はたちまち“キャパオーバー”に陥ってしまう。岩村町は「人々の生活の場」であることを重視しており、インバウンドの本格化には慎重なようだ。

街に息づく儒学者、佐藤一斎の思想

 岩村町を訪れる観光客が必ず目にするのが、各戸の軒下に飾られた佐藤一斎(さとう・いっさい、1772~1859)の語録である(写真)。佐藤一斎は岩村藩出身の儒学者だ。その著書『言志四録』は、西郷隆盛が愛読していたことでも知られる。

各戸の軒先に佐藤一斎の語録が飾られている。言志四録の中の一節「胸次虚明なれば,感応神速なり」と書かれている。意味は「胸の内がからっぽで透明であれば、万事に誠の心が通じて、その感応は実に神の如く迅速である」(川上正光 現代語訳)

 佐藤一斎の思想を語り継ぐNPO法人「いわむら一斎塾」の塾長、鈴木隆一氏(79歳)にも、岩村町の今後を尋ねてみた。鈴木氏はこう語った。

「外国人観光客に岩村町城下町を知ってほしいという気持ちは強くあります。けれどもインバウンドは兼ね合いが難しい。守ってきたものが失われることだってありますから」