テストの結果によって進学や将来の職業が左右されるこの国では、点数に訴えるのが最も説得的だと考えたのだ。

 だが、違和感が消えなかった。新しい教育では、「テストの点が取れる子」ではなく、「自ら学べる子」を育てようとしているはずなのに、このままでは誤ったメッセージを伝えることになる――。

 そう気づいた川島さんは、「テストの呪縛から抜け出そう」と決意。

 推敲を重ね、最初は新しい教え方に懐疑的だった保護者たちも、観察や実験に積極的に取り組み、友達と議論し堂々と発表するわが子の姿に驚き、成長を実感する、という冒頭のストーリーが完成した。

 「シナリオの完成まで数か月かかりましたが、結果的に最初よりメッセージがクリアになったと思います」と川島さんは振り返る。

 撮影に入ってからも、苦労は続いた。何より、主役の若手教師を演じる女優に新しい授業の中身を理解させるのが大変だった。

 彼女自身、従来の教え方しか知らないことを考慮すれば致し方ないとはいえ、子供たちに考えさせるシーンでも、沈黙を恐れて「分からないの?」「こうでしょう?」と台本にない言葉を口にしてしまうことが続いた。

 黙っているよう注意すると、「それでは子供たちが作業している間、私はどこにいて何をすればいいのですか?」と聞かれることもあったという。

 川島さんはそんな彼女に自ら教室を歩いて机間巡視をやってみせるなど、粘り強く演技を指導。しかし、そうやって撮り直しを重ねていると生徒役の子供たちが飽きてしまうため、演技に集中でさせるのにも苦労した。