一方、アメリカが確立したヘゲモニーは、多国籍企業、国際通貨基金と世界銀行、世界中に展開する米軍によって支えられましたが、ブレトン・ウッズ体制の終焉と石油ショックの影響で、1970年代から衰退に向かいました。まだアメリカを脅かす強国が登場していないので、アメリカが世界の経済システムの中心であることには変わりありませんけどね。

――著書では、アメリカに変わって中国がヘゲモニーを握ることには懐疑的な見方をされていますね。

玉木 中国の成長を脅威に感じている人も多いと思います。GDPでは日本をとうに追い抜き、世界第2の経済大国になった。猛烈な勢いで工業化も進んでいます。

中国はヘゲモニー国家にはなれない

 その中国が打ち出している経済政策が「一帯一路」構想です。これは、中国西部-中央アジア-ヨーロッパを結ぶ「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸部-東南アジア-インド-アフリカ東岸-中東を結ぶ「21世紀海上シルクロード」という、陸上と海上の流通ルートを中国主導で確立するという構想です。

 同時に中国は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を主導し、これを通じてアジアのインフラ投資をし、一帯一路を後押ししようとしています。

 しかし、この構想の目的が、アジア各国の成長よりも、中国に向けて中央アジアや中東からエネルギーを安定供給してもらうことにあるのは明らかです。

 ヘゲモニー国家というのは世界経済をリードする存在です。世界のありとあらゆる国が、国際取引をしようとするときに、ヘゲモニー国家が築いたシステムをしようしなければならず、そしてそのシステムを利用するときに手数料を払う。そうしてヘゲモニー国家は自動的に儲けていくのです。

 一帯一路構想からはそうした意図は読み取れません。もっと言うなら、まずは沿岸部と内陸部の所得格差を是正し、深刻化する公害問題に手を打たないと、肝心の経済発展もままなりません。一帯一路よりはそちらが先決でしょうね。