イノベーションの第7の機会──「新しい知識を活用する」

「知識が技術となり、市場で受け入れられるようになるには、25年から35年を要する。リードタイムの長さは人類の歴史が始まって以来さして変わっていない」
(『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社)

農業の伝統的な泣き所は資金調達

 私が最初に農業分野で書いた著作は『農業に転職する』(プレジデント社)です。新規就農を希望する人に向けた就農マニュアルでした。それまで体験記やインタビュー集しかなかった就農ガイドに、初めて「経営」を持ち込んだことが評価され、今も版を重ねています。

 農業に経営を持ち込むということは、新規就農を希望する読者に、現実と対峙することを求めるということです。例えば新規就農に必要な資金は、できれば2000万円以上、最低でも800万円は必要だと書かねばなりません。

 農業に転職すると健康的でゆったりとした生活ができる、というイメージを持つ人は、そこで現実にぶつかります。家庭菜園程度なら鍬一本でも可能ですが、職業にするなら機械や施設への投資が必要です。

 何よりも問題なのは、すぐお金にならないことです。作物を植え、収穫するまで数カ月はかかります。もしくは雌牛を買って種つけし、生まれた子牛を売るには20カ月かかります。それだけの運転資金がなければ、農業はできません。

 農業を事業としてみた場合、昔から泣き所とされていたのが、この金融面です。個々の零細農家には資金調達力がないため、何か事業をやろうとしてもできないのです。

 例えば大都市に農作物を持っていけば儲かると分かっていても、投資ができず、商人に安値で作物を売るしかなかった、といった具合です。

 そのため戦前から農家は組合を組織し、商人たちに対抗する仕組みを作ってきました。現在のJAもそうした歴史的流れから作られました。今でもJA綱領にその思想の片鱗が見られます。

「和牛商法」は明らかな詐欺がほとんどだったが・・・

 JAは農業での資金調達を事実上独占していますが、近年、新しい資金調達法も現れ始めています。

 例えば、いわゆる「和牛商法」がその1つです。和牛を共同購入し、飼育して売った利益で高い配当を得られるとする仕組みです。