したがって、南シナ海でFONOPを実施する米海軍艦艇が「無害通航」の範囲内で中国人工島沿岸12海里内海域を通航した場合には、人工島をはじめとする南シナ海に浮かぶ島嶼環礁が中国領であろうがあるまいが、領有権紛争とは無関係にFONOPを実施する艦艇は国際法上は全く合法ということになる。

 ということは、FONOP実施艦艇が「無害通航」を繰り返しているかぎり、中国の領有権の主張に関してはFONOPは直接には何の影響も与えないことになる。

 これまでの10回の南シナ海FONOPでは米海軍駆逐艦は、「無害通航」の範囲内で12海里内海域を速やかに通過しただけである。もっとも、アメリカの伝統的外交方針として、第三国間の領有権紛争には関与しないという原則があるため、FONOPを実施しても領有権紛争には関与しないというのが米政府の基本姿勢だ。

 とはいうものの、アメリカ側が事前通告なしに人工島などの12海里内海域に繰り返し接近して中国側に警告しているのは、「中国の領海と認めたうえで、事前通告を求めている中国国内法が国際海洋法に照らして違法だから」ではなく「中国国内法の規定があろうがなかろうが、そもそも中国の領海と認めていない」からである。言い換えると「公海上を通航するのに中国当局に事前通告する必要などあり得ないし、中国側から非難される言われもない」から、中国が生み出した人工島の12海里内海域に軍艦を派遣しているのである。ということは、公海上であるならば、「無害通航」などは必要なく、軍事演習を実施しようが、軍事的威嚇とみなされるような活動をしようが、誰に遠慮をすることもないということにもなる。