郡上八幡城からの、郡上市内の眺め。山間部ならではの、ICTの活用ニーズがある。

 テレビ会議システムの活用は、都市部から地方まで日本全国で試みられている。導入の動機や得られる恩恵は、それぞれの環境や事業体によってさまざまだが、時間的・空間的な移動コストの大きさ、そしてコミュニケーションの困難さの克服は重要なキーワードになるだろう。

 岐阜県郡上(ぐじょう)市。岐阜県のほぼ中央に位置し、2004年に7町村が合併して誕生した。現在は、高山市に次ぐ県内2位の面積(約1030km2、東京23区の約1.6倍)を誇る。地形としては山間部が目立ち、市内の移動にも時間などのコストが大きい。

 だが、郡上市はICTを活用してそうした課題を乗り越えようとしている。2016年には総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」に採択され、サテライトオフィスの整備やテレワーカーの誘致などを積極的に推進。また、2017年に「地域IoT実装推進事業」に採択され、2018年1月にはテレビ会議システムを市内の小中学校と教育委員会に導入した(システムはブイキューブ製)。

 テレビ会議システムの導入には、移動コストの削減だけではなく、小規模校のハンディキャップの克服、地方における働き方や人材育成の新しい形の提案など、さまざまな効果がある。長年、郡上市で教育現場に携わってきた、郡上市教育委員会学校教育課 課長の國居正幸氏にシステム導入の狙いや成果、今後の展望などを聞いた。

極小規模校の子どもに友達を

郡上市教育委員会学校教育課 課長の國居正幸氏。

「極小規模校の子どもたちは、『コミュニケーションをとりたい』『議論をしたい』と思っても、先生くらいしか話しかける相手がいません。今回の導入は、同級生がいないという、学習上の大きなデメリットを解消するのが一番の目的でした」(國居氏、以下同様)

 市内には中学校が8校、小学校が22校あるが、そのうち3校は全校児童が10名にも満たない「極小規模校」だ。國居氏自身、極小規模校で校長を務めた経験もあり、「極小規模校の子どもたちを、何とかしてあげたい」という思いを持ち続けていた。

「ある程度の人数がいる学校にとっては、極小規模校とテレビ会議で交流するメリットは薄く、ある意味『お荷物的な』交流に思われてしまいます。しかし、全校生徒10人以下の極小規模校どうしでは、お互いのニーズがマッチしました。『同級生ができた』『テレビの向こうに友達がいる』といって、子どもたちはとても喜んでいましたね」