もちろん、通常の結晶よりも複雑な系ですから、より低い温度まで冷やしてやらないと、準結晶は超伝導転移を示しません。しかし、このような実験事実が確認されると、物理を考える自由度が飛躍的に大きくなるのは間違いありません。

自然界の本質としての超伝導

 電流が流れれば熱が発生してエネルギーが失われる・・・。これが当たり前であると、オームの法則=19世紀以降の人類は(発見の順番の偶然によって)信じてきました。

 これが19世紀最末年になると、原子、電子の存在が知られ、原子の中では電子が運動していても、なぜか安定していて、熱損失などがないという不思議な定常状態を示すことが知られます。

 この謎を理論的に解明する量子力学(ハイゼンベルク、シュレーディンガー、ディラックら、各々1932/33年にノーベル物理学賞を得ていますが、たかだかノーベル賞がどうたら、というレベルの業績ではありません)が発見されます。

 超伝導という状態の理解が進むにつれ、実は原子分子の中で量子力学的な状態が安定であるときは、超伝導である方が普通、当たり前であって、それが壊れ、古典力学的、巨視的な物質の振る舞いとなるとき、ジュール熱などのエネルギーの散逸が見られるようになることが分かってきます。

 1962年、ケンブリッジ大学の大学院生だったブライアン・ジョセフソンは、「異なる2つの超伝導体」が薄いバリアを境として近接存在するとき、各々の「波動関数」の「位相」に応じて特異な超伝導電流が流れることを理論的に予言します。

 それは直ちに実証され、1973年に江崎玲於奈、イヴァール・ギェヴァー(アイヴァー・ジェーヴァー)とともにノーベル物理学賞を受けました。

 今から30年ほど前、物理学を学んでいた私は、ジェーヴァーの論文やジョセフソン接合がランダムに結合した金属微粒子膜(ジョセフソン・ジャンクション・ネットワーク)の特異な性質を前提とするいくつかの実験に、東京大学理学部物理学科・小林俊一研究室(小森文夫助手:当時のご指導)/低温センター大塚洋一研究室で携わらせていただきました。

 ほとんど先生に指導していただいたまま、どうにか修士論文をまとめるといった大学院生時代を過ごしていました。

 関連のトピックスと、それらを通じて垣間見える量子力学の本質については、いちファンとしてではありますが長年考えてきました。