徹底的予防戦争を実施する場合、韓国軍特殊部隊と行動を共にする米軍特殊部隊に引き続き、米海兵隊上陸部隊が侵攻し、米陸軍の大部隊が投入されることになる。地上軍が北朝鮮領内での作戦行動を開始すると、アメリカ軍将兵の死傷者をはじめとする甚大な損害が予想される。そのような犠牲は極力避けなければならないというのがアメリカ国防当局はじめ米国世論の支配的論調である。

 それだけではない。アメリカ軍地上部隊が北朝鮮領内に足を踏み込むと同時に、現在中朝国境付近に展開している中国地上軍大部隊が、「北朝鮮からの難民を保護するとともに、米韓連合軍の侵攻により大混乱に陥った北朝鮮の秩序を維持する」という名目で北朝鮮領内に雪崩れ込むことは確実視されている。

 その結果、米韓連合地上軍は、北朝鮮軍に対する掃討作戦だけではなく、中国地上軍と衝突する可能性にも直面する。

 万が一にも中国軍との間で戦闘が勃発すると、隣接する中国からは中国軍航空部隊それに海軍部隊も出動し、本格的な米中戦争へと発展しかねなくなる。大戦争はちょっとした偶発的衝突が引き金となり得ることは、古今東西の歴史が物語っている。

 以上のような理由によって、現時点では徹底的予防戦争をトランプ政権が発動する可能性は極めて小さいと考えざるを得ない。

十二分に現実的な「限定的予防戦争」

 徹底的予防戦争と違って限定的予防戦争、すなわち北朝鮮のICBM発射・開発能力を破壊して、少なくともアメリカに対する核攻撃の可能性だけは除去する戦争は、現状においても実施される可能性は否定できない。

 もちろん、アメリカ政府、とりわけ国防当局ならびに外交当局としては極力軍事力の行使は差し控えたいのが本音である。だが、外交的対処では中国の動きに期待せざるを得ない。とどのつまりは北朝鮮情勢も打開できず、南シナ海と東シナ海への中国の膨張主義的拡張政策も完成の域に近づけさせてしまい、下手をすると台湾も中国の手中に落ちかねない。