多くの戦略家は懐疑的

 このような考え方に対しては、賛同しかねている米軍関係者やシンクタンク関係者なども多い。賛同しかねる理由としては、下記のような疑問が挙げられている。

「中国軍による先制侵攻が極めてスムーズに達成されるという考えは、北朝鮮軍の中朝国境に対する警戒反撃態勢がとられていないことが大前提になっている。しかし、金正恩一派が中国に対して全く反撃作戦や報復作戦を用意していないと考えることは困難だ(もちろんそのような作戦の存在が示されているわけでも、存在しないことが確認されているわけではないのだが)。おそらくは、中国による電撃侵攻が開始されると、北朝鮮軍による捨て身の反撃に直面し、双方に莫大な死傷者が生ずることは避けられないであろう」

「さらに問題なのは、『トロイの木馬』戦術の成功を想定していることだ。中国の工作によって中国側に協力する勢力を増殖させて北朝鮮軍を内部から崩壊させて中国軍側に寝返らせることなど、北朝鮮そして北朝鮮軍の現状からはとうてい想定することはできない。というよりは、そのような期待を前提とする侵攻作戦は危険極まりない」

「そもそも、金正恩一派だけでなく北朝鮮軍指導部は、中国に核施設をはじめとする戦略資源を管理されてしまい、中国の完全なる軍事的保護国となることは断固として拒否するはずだ。彼らは強固かつ極端な超国家主義者であり、その伝統は金日成以来綿々と受け継がれている。たとえば、朝鮮戦争の際に中国軍が北朝鮮軍を支援して共に戦っているときでさえ、北朝鮮指導部と中国指導部の対立は深かった。その後も、北朝鮮では過度の親中国派や親ソ連派は排除されている。つい最近でも、金正恩の叔父で親中国派の張成沢や、中国に保護されていた金正男が殺害されているではないか」