注目を集めるヤマカガシ。我々は野生生物とどのように付き合っていけばよいのだろうか。(写真:中井寿一/アフロ)

「危険生物」という言葉

 2017年の夏は、「危険生物特集」と謳ったテレビ番組が多かったように思う。筆者のところにも、テレビ関係者から「危険生物として、タイのミズオオトカゲの取材をしたい」と相談があった。

 しかし、実際にはミズオオトカゲは危険な生物とは言い難い。確かに全長2mを超すものも多いが、人と遭遇すれば逃げていく。そもそも、すでに多数の個体がタイ都市部に暮らしており、本当に危険ならばもっと事故が起きているはずだ。

 そのあたりは、NHK「ダーウィンが来た! 潜入!大都会のトカゲ王国」(2017年3月26日放送)に出演し、紹介済みなので、興味のある方は再放送を待ってほしい。筆者自身は、「危険生物」というもの自体が、本当は存在しないのではないかとすら思っている。わざわざ人間を好んで襲う生物など、蚊くらいではないだろうか?(蚊は確かに危険だが)

ヤマカガシ事故

 さて、そんな状況の中、今年7月29日に兵庫県で、ヤマカガシに咬まれた小学生が意識不明になるという事故が起きた。幸いにも、一命を取りとめたが、筆者はまったく別の部分で嫌な予感がしていた。それは冒頭で述べた「危険生物」報道の過熱である。その予感は的中した。メディアにあふれる「ヤマカガシ危険!」の文字。

 確かに、ヤマカガシによる死亡事故は、1974年以降に4例起きている。毒性がマムシより強いとされているヤマカガシは、本州・四国・九州の田園や河川敷、山間部に広く生息している。

 毒性と分布域から考えると、4例しかないのは少ない気もする。きちんとした生息数のデータはないが、ヘビ類の調査をしている人から「どこへ行ってもアオダイショウやシマヘビばっかりで、ヤマカガシは少ないなあ」という話を聞いたことがある。たしかに、筆者の経験としてもヤマカガシに遭遇する率は少ないように感じる。

 しかし、仮に数が少ないのだとしても、いるところに行けばいるのは事実である。筆者だって、仕事柄、野外に出ればヤマカガシとはそこそこ遭遇する。人里近くの場合も多い。だとすると、ここ四十数年で死亡例4件というのは、いかに少ないか想像いただけるだろう。