北朝鮮危機事態に主体的対応を欠く日本
北朝鮮発の危機に際し、日本の中では依然として米国、北朝鮮、中国の対応ばかりが報道され、さらには米ドナルド・トランプ大統領が思いつきで北朝鮮を挑発しているというような報道までされていることに驚かされる。
米国は長い間、戦略的忍耐と称して軍事的行動を抑制してきたが、今ここに至って結局、北朝鮮が核保有国になることを助けてきただけだった。
筆者が中政懇(自衛隊のOBと中国の軍人などの交流)で6月に中国を訪問した際に中国側が言うことは、「米国は米韓合同演習をやめ、北朝鮮はミサイル発射と核実験を凍結し米国と北朝鮮が直接話し合え」であった。
また、北朝鮮に対する石油の供給停止などの経済制裁については何の言及もなく、制裁をする気は見られなかった。これでは結局今まで同様、北朝鮮に核保有国になることを助けるだけで何も解決にはならないことは明白である。
日本のマスコミの一部には、平和的解決という文語が正義かのように扱われているが、その結果どうなるのかの思索が全く欠如している。危機対応に主体性がなく、全く人任せ、風任せである。
核・ミサイル保有に固執する北朝鮮
これに対する米中の反応は?
北朝鮮は、国際社会の安全保障に対する懸念に一顧だにすることなく、日本、韓国、中国などを射程圏下に収めるミサイルを多数保持し、さらにミサイルの性能、射程の向上に努めるとともに、来年には核兵器をミサイルに搭載できると言われている。
軍事的観点から言うならば、米国はこの危機に際し、中国の経済制裁に頼ることなく、軍事的決着をつける覚悟を固め、北朝鮮を殲滅する作戦を発動するのは時間の問題であるとの見方が一段と強まりつつある。
事実、トランプ大統領は8月8日からのツイッターや声明で「これ以上、米国を脅さない方がいい。世界が見たこともないような炎と怒りに直面することになる」「北朝鮮がグアムへの挑発行動に出た場合、誰も見たことがないようなことが起こる」と述べている。それも注意しながらメモに目を通しながらの発言であった。
一方、ジェームズ・マティス国防長官は「国務長官らによる外交が主導しており、私はそこにとどまりたい」と述べており、外交主導、軍事は最後の手段としてはっきりとした整理がされ、政権内では十分調整されていることが分かる。予測不能と言われるトランプ大統領の思いつきとの指摘は、やや浅薄な感を否めない。
米国が、北朝鮮を攻撃する際、中国国境付近に点在する北朝鮮のミサイル基地を壊滅するためには、中国が米軍機、艦船などに攻撃をしないという中国の米国に対する消極的協力が必須であるとともに、ロシアの暗黙の了解が必要となる。
このため、米国は、少なくとも今秋の中国共産党大会が終了するまでは、実力行使を手控え、その間を十分な情報収集に基づく攻撃計画の策定と演習に当てるとともに、特殊爆弾などの製造に邁進するのではなかろうか。
もちろん、奇襲のために攻撃を前倒しにすることはあり得よう。8月21日に始まる米韓合同演習からは、いつでも米軍は奇襲攻撃に移行することができるからである。しかし、周到な準備をして一挙に決着をつけるのがこれまでの米国のやり方であり、予断をもって時期を特定することは難しい。