ところが、薄さんの店では今年7月15日の昼前に異常が発生。店主である夫のスマホアプリに、朝からの売り上げがまったくチャージされていなかったのだ。

 不審に思った薄さんが隣の店の奥さんに相談したところ、こちらの店もチャージがなされていないことが判明した。よく調べてみると、店先のQRコードの上にぴったりと別のQRが貼られており、第三者にスマホ決済の売り上げを騙し取られていたらしい。被害総額は薄さん宅が500元で、隣の奥さんが1000元であった――。

 こうした事件は現代の中国では日常茶飯事である。たとえば今年5月ごろから重慶市でもニセQRを使ったスマホ決済の窃盗事件が起き、当局は7月に犯人の男2人を逮捕。彼らは20店以上の商店の店先のQRコードを自分が準備したアカウントのものに貼り替え、総額1万元以上の売上金をかすめ取っていたという。

 犯人らはまず別人のIDカードと飛ばしの携帯SIMで作った振込専用アカウントを用意して、自分にアシがつかないQRコードを作成。ファーストフード店などで犯人1人が店員の注意を引きつける間に、もう1人がこっそり貼り付け作業を行う手口だったようだ。

 また、6月末には広東省深セン市南山区でも、ニセQRの貼り付け詐欺犯1人が逮捕。さらに7月に入り江蘇省徐州市の牛肉ラーメン店でニセQRが発見されたほか、7月27日には広西チワン族自治区柳州市の市場でも同様の貼り付け詐欺が発生し、犯人の男女3人が逮捕されている。ほか、こうしたニセQRコードにスパイウエアなどを仕込んで個人情報を抜き取るという、単なる売上金詐欺よりもさらにタチが悪い犯罪も横行中だ。

 SuicaやEdyのような、日本や香港など他国で主流の非接触型ICカードの決済は、店側が専用のカードリーダーを準備しなくてはならない。だが、近年の中国で主流のスマホ決済は、店側がQRコードを紙に印刷するだけで対応が可能であり、このことも中国でスマホ決済が個人商店まで広く普及する要因になっている。

 だが、これは要するに詐欺師のコストもゼロに近いということだ。中国ではスマホ決済の普及によってニセ紙幣をつかまされるリスクが減ったと言われるが、かわりにニセQRコードが登場しているため、実は騙される危険は相変わらずだったりするのである。