政府にできることはまだ多い

 もう1つの税制改革の提案として昔からあるのが、ベーシックインカム(BI)だ。これはすべての個人に定額の税を還付して現在の社会保障を縮小するもので、スイスやカナダなどで提案されている。

 その仕組みはシンプルである。たとえば80万円を(個人ベースで)一律に支給する。所得ゼロの人は80万円もらい、年収50万円の人は差額の30万円をもらう。所得が80万円以上の人からは所得税20%を徴収した上でBIを支給する。年収500万円なら、手取りは

 80万円+(500万円×0.8)=480万円

になる。同様に高所得の人からも税額控除する。ミルトン・フリードマンの提唱した「負の所得税」も算術的にはこれと同じで、日本の財務省が導入しようとしている「給付つき税額控除」も同じ発想だ。スイスの国民投票などの経験では、一律に給付するBIのほうが税務は単純化できるが、「不労所得」というイメージが賛成を得にくいようだ。

 こうした税制改革は排他的ではなく、組み合わせることも可能だ。たとえば法人税を大幅に下げる代わりに累進消費税を導入し、それを財源としてBIを支給する、といった方法も考えられる。

 既存の社会保障をすべてやめなくても、たとえば生活保護だけをBIに変えるというように徐々に導入することも可能だ。大事なのは今の不公平で非効率な税制を簡素化し、労働意欲や投資意欲を阻害しない税制にすることだ。

 どこの国の税制も理想からはほど遠いので、政府のできることは多い。アメリカ議会事務局の計算では、消費税ベースにすると投資が増えるので、税収中立でも資本ストックが20%以上増え、GDPが5%以上あがる。

 ここで提案した改革は、既存の税や社会保障を根本的に変えるので政治的には困難だが、向こう数十年の未来を考えると、不可能ではない。改革で大事なことは、やりやすいかどうかではなく望ましいかどうかである。日本経済を再生させるために政府のできることは、まだ多いのだ。