「私が社長に就任してから、新卒者採用の面接資料から出身校の記載を消しました」と、大手外資系企業の社長が誇らしげに語った。それをやったのは彼が社長になってからのことだから、つい数年前のことである。

 その発端は、彼自身の経験にある。彼は新卒で大手商社の入社試験を受けたが、その時、国立大学出身者と私立大学出身者は試験会場が違い、私立大出身だった彼は「差別」を感じた。

 その大手商社から彼は内定をもらったものの、「こんな古い体質では入社後も差別されるに違いない」と判断し、入社を断った。そして、外資系企業を選んだのだった。

 その経験から、面接資料から出身校の記載を消すという決断を社長としてやったのだ。さすがに彼の会社では「露骨な差別」こそないのだろうが、出身校によって面接官の印象が変わるということは、外資系であっても存在し続けていたからである。

日本の企業では「学歴」が重要な意味を持っている

 採用試験で出身校の記載を止めることは、前記の大手外資系企業だけでなく、多くの企業がやってきている。大手外資系企業より早く決断した企業も多い。それでも採用と学歴の関係は大きくは変化してきていない。

 その証拠に、より高い偏差値の大学を目指すための学習塾が盛況を極め、そこを目指す競争は熾烈になるばかりだ。理由は、よりよい企業に入社するために必要だからだ。

 「日本的経営」を分析し、世界的に有名にしたと言われているのが、ジェームス・C・アベグレンが1958年に著した『日本の経営』である。そこでアベグレンも、「日本企業は人員の選考にあたって、何よりも学歴を重視する」と指摘している。

 なぜ日本企業は学歴を重視してきたのか。そして、かつてほどの露骨さはないにしても、なぜいまだに重視しているのか。

 アベグレンは、「日本企業が人員選考に当たって、大学での教師と学生の関係など、もっと幅広い社会関係に付随する選考の仕組みに大きく依存していること、人物や経歴など、実際の職に直接には関係しない質を重視することにある」とも説明している。

 実際の職に関係する質より「人物や経歴」が重視され、それを測る基準が学歴になっているというわけだ。

学歴重視につながる「新卒」採用へのこだわり

 そしてアベグレンは『日本の経営』の中で、「アメリカとの違いとして、学校を卒業すると同時に入社するのが、事実上、会社に入る唯一の道であることを強調しておくべきだろう」とも記している。この状況には、現在も大きな変化はない。