また、シリアには米国本土や米国の前進拠点に対する反撃能力はないが、北朝鮮には韓国や日本の米軍諸施設はもとよりグアムの米軍基地にすら反撃を実施する弾道ミサイル戦力が存在する。したがって、北朝鮮が米国にとっての「レッドライン」を超えた場合、米国すらも直接被害を被りかねない。シリアをミサイル攻撃する場合は米軍の損害を考える必要はないが、北朝鮮の場合は韓国や日本に展開する米軍も損害を被ることを織り込まねばならないのだ。

 それだけではない。シリアの軍事攻撃目標は、今回のミサイル攻撃の状況を映し出したロシアのドローンの映像でも明らかなように、地上にむき出しの航空施設や建造物がほとんどである。それに対して、北朝鮮の軍事攻撃目標の多くは地下施設や山腹の洞窟施設である。

 それらの地下式施設を、今回のシリア攻撃で用いたトマホーク巡航ミサイルで破壊することは不可能に近い。そうした強固な軍事施設を破壊するには、どうしても大型貫通爆弾(GBU-57 MOP)が必要である。これは巡航ミサイルには装着できず、B-2ステルス爆撃機(一機に2発搭載可能)で攻撃する必要が生ずる。

B2ステルス爆撃機に装着されたGBU-57大型貫通爆弾

 さらには、シリア軍の軍事施設や化学兵器関連(と米国がみなす)施設の所在はおおかた判明しているのに反して、北朝鮮の大量破壊兵器や弾道ミサイルに関連した地下施設の大半は位置すら判明していない状態だ。いくらステルス爆撃機で接近可能であっても、また、大量の巡航ミサイルを精確に撃ち込むことが可能であっても、攻撃目標の正確な位置が判明していなければ攻撃できない。

韓国への反撃は確実、おそらく日本にも

 そして何よりも決定的な問題点(米国にとっての)は、北朝鮮に対する軍事攻撃は“確実に”韓国(とりわけソウルとその周辺)に対する激烈な報復攻撃と、“おそらくは”日本に対する報復攻撃も引き起こしてしまうことである。

 すでに本コラム(2017年3月30日「米国で北朝鮮攻撃が議論の的に、日本は備えを急げ」)で指摘したように、米国による北朝鮮軍事攻撃の直後に、ソウルとその周辺に対しては無数の砲弾とロケット弾が雨あられと降り注ぐことになる。その事態をどのように考えるのかが、米国軍関係者の間では議論の焦点になっている。