定年退職者の引きこもり――そんな言い方を聞いたのは、東京のベッドタウンと呼ばれる地域で地域活性化に取り組むNPO(非営利団体)の責任者に取材した時のことだった。

 若者の引きこもりは耳にしていたが、60歳を過ぎた年輩者の引きこもりは初めて聞くことで、思わず「えっ?」と聞き返してしまった。

 ちなみに最近では、「高齢者」という言葉は65歳以上を指して使われ、65歳から75歳未満までを「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と呼ぶのだそうだ。

行くところがなく、地域にも溶け込めない

 高齢者という呼び方は「年寄り」を連想させ、肉体的にも精神的にも衰えの目立つ人たちと考えてしまいがちだが、65歳を超えても肉体的、精神的に健康な人が多いのが現実だ。定年退職直後の60歳なら、なおさらだ。

 そもそも高齢者を前期と後期とに分けるのも奇妙奇天烈でしかないが、医療制度など制度的な都合でしかなく、肝心の当事者を無視した呼び方でしかない。

 ともかく、現在の日本での定年は60歳ということになっているので、先のNPO責任者の話によれば、前期高齢者にも分類されない60歳を過ぎたばかりの人でさえ引きこもっていることになる。

 「定年で会社を辞めれば、それまで仕事でのつきあいがあった人たちとの関係は切れてしまう。仕事一辺倒でやってきたので趣味もない。サラリーマン時代は朝早く出かけて夜遅く帰り、休みも接待ゴルフという生活だったので地域との交流もない。だから定年になって行くところもなく、地域にも溶け込めないので家にこもるしかなくなる」と、NPO責任者は説明してみせた。

 そういう引きこもりの定年退職者が身体的な問題を抱えているわけでもないようだ。そういう人も皆無ではないだろうが、多くの人が「行くところがない」という理由で引きこもっているらしい。引きこもりが原因となって肉体的にも精神的にも病んでしまいそうだ。定年が不健康な高齢者をつくりつつある、わけだ。

生涯現役でいるのはますます困難な状況に

 電通が、1947年生まれ(2007年に60歳で定年となる)の夫とその妻を対象にした「2007年団塊世代退職市場攻略に向けた調査レポート『退職後のリアル・ライフII』」(PDF)を2006年9月に発表している。それによると、「65才くらいまで働きたい人が最も多く、生涯現役意識が根強い」という。

 生涯現役意識の根強さは現在も変わりないはずである。ただし、生涯現役でいられない状況は年々、深刻化してきている。定年があるので、それまで勤めていた会社は辞めざるを得ない。再就職しようにも、就職難の世の中で、ままならない。