曲線は曲者
Σの呪縛を解くシリーズ第4弾のテーマは積分法。積分法とは何か。連載「人生を積分して知る驚きの結果、大学生は早下り坂」で紹介しましたが、簡単に言えば曲線で囲まれた図形の面積を求めることです。
直線の測量が容易なのは「真っ直ぐ」だからです。「真っ直ぐ」でない図形──曲線の測量は困難を極めます。今から2000年以上の昔、曲線に果敢にアタックした数学者がいました。勇者がたどり着いた風景がΣの風景──無限級数です。
その勇者こそ数学者アルキメデス(紀元前287-紀元前212)であり、彼が考え出した求積法が"取り尽くし法"です。
アルキメデスは苦労の末、放物線と弦が囲む部分の面積を求めることに成功しました。それも3つの異なる考え方で。著書『方法』に1つ、『放物線の求積』に2つ、その詳細が述べられています。
アルキメデスの第1の方法
『方法』に記された第1の方法は「三角形の重心」と「仮装天秤」を用いるという突拍子もない方法です。
三角形の重心は、中線(頂点から対辺の中点に引いた線分)を2対1に内分する点のことです。天秤にかけられた2つの物体は、重さと距離が反比例の関係にあるときにつり合います。これが「てこの原理」です。
「わたしに立つ場所を与えよ。そうすれば地球をも動かしてみせよう」
有名なこの言葉は、アルキメデスがいかにてこの原理を知り尽くしていたかを物語っています。
ガリレオが「自然は数学の言語で書かれている」と言ったのは17世紀。その2000年前に同じことをすでに見抜いていたのがアルキメデスでした。
数学という思考実験は現実の物理実験を凌駕する威力を持つことを発見したアルキメデス。彼の頭脳にあったのは、ガリレオを超えてニュートンの思考実験に通じ、さらには現代科学の神髄までを貫く思想です。
このおかげでいま私たちは到底手が届かないミクロの世界とマクロな世界の両方を手にすることができたと言えます。
「いかにして曲線図形の面積を直線図形と等しくするか」
これこそ問題の核心でした。ここから、放物線の切片──弦と放物線で囲まれた部分の面積は内接する三角形の4/3倍になることが導かれるのです。いったい誰が三角形の重心と天秤が放物線を解く道具になると考えたでしょうか。