パコック港でコンテナから荷物を運び出す荷役夫たち

水深差10メートル

 6月中旬のイラワジ川の上は、息苦しいほど密度の濃い空気が辺りいっぱいに立ち込めていた。川岸に停泊しているのは、バージ船と呼ばれる台船だ。

 長さ60メートル、幅15メートル、深さ3メートルで総重量は約300トン。20フィート大の貨物コンテナを約60個は積める大きさだが、平たく言えば“いかだ”だ。

 等間隔に並んだコンテナの1つのトビラが開かれると、2000箱はあるだろうか、隙間なく積み重ねられた白いダンボール箱が中から現れた。表に「国連世界食糧計画(WFP)」「日本基金(Japan Fund)」と印された栄養強化ビスケットだ。

 と、左右に一人ずつ男性が立ち、白い壁を少しずつ切り崩すかのように2箱ずつ取り出しては、一列に並んだ男たちの肩に載せていく。

 受け取った段ボールを首と肩で挟むように支え、落とさないように両手を添えた不安定な姿勢のまま、器用に細い板をつたって甲板から岸に降りていく荷役夫たち。そのまま川辺に停まっているトラックの荷台に運び込むと、再びコンテナまで戻ってくる。

 この暑さの中、決して楽ではない作業のはずだが、コンテナの前でカメラを構える筆者の前を通るたびにレンズの向こうでおどけてみせる若者もいて、そのたびに辺りの空気がふっと和む。2つ目のコンテナのトビラが開かれると、今度はコメが詰まった麻袋の山が現れた。

 ここは、国土の中央部に位置する古都マンダレーから、イラワジ川を約100キロ南西に下ったパコック港だ。約3000もの仏塔が天にそびえる幻想的な風景で知られるバガン遺跡から車で約1時間ほどのところに位置する。

 バージ船の向こう側には、ザガイン橋と呼ばれるトラス橋が左右に伸びる。三角形を組み合わせたデザインが美しい。

 広大な国土とデルタ地帯を有するこの国において、内陸水運は重要な輸送手段の一つである。水辺に立つと、砕石や材木、穀物などを積んでゆっくりと川の上を進む小舟をよく見掛ける。水運によって運ばれている物資は、年間約700万トンに上るという。

 しかし、それらの貨物は現在、ほとんどが「バラ荷」の状態で運ばれている。諸外国からヤンゴン港に陸揚げされた貨物でさえ、すべてコンテナから搬出され、バラバラに小舟に積み替えられて内陸部へと運ばれているのだ。

 そのため、荷積みや荷下ろしは、冒頭のような荷役夫たちの存在なしには成り立たない。