GSKのフィリップ・フォシェ社長(撮影:榊 智朗、以下同じ)

世界のどの製薬会社もできなかった
MRから売上目標を取り去る決断

 雑誌『フォーチュン』は9月、「世界を変える企業(Change the World)」(2016)ランキングを発表した。今回第1位に輝いたのは、英国に本拠を置く大手製薬会社グラクソ・スミスクライン(以下、GSK)である。

 同社では、MR(医療情報担当者)のインセンティブ制度の見直しや、セーブ・ザ・チルドレンとのパートナーシップによる100万人の子供の命を救う活動のほか、後発開発途上国(LDC)への薬のアクセスを促進し、またLDCで得た利益の20%をヘルスケア強化のためにそれらの国に再投資するといった貢献活動を行っている。

 社会への貢献と同時に新たな事業モデルを確立し、成功させていることが評価された。

 何かと不正事件が取り沙汰される製薬業界の中で、世界を代表する製薬会社が評価されたことは特筆すべきだろう。今回の受賞について日本法人であるグラクソ・スミスクライン(株)のフィリップ・フォシェ社長に聞いた。

 「今回、世界の様々な業種の中からGSKが1位に選ばれたことは、我が社の長きにわたる伝統と遺産の賜物です。私たちは突然、こうした貢献活動を始めたわけではありません。長い年月の間、決意を持って取り組んできたことがこの賞に繋がりました」

 GSKは、呼吸器領域における医薬品開発を中心に、革新的な医薬品やワクチンなどを開発してきた実績を持つことで知られるが、その一方で大きな利益が見込めないことから製薬会社が手を出しづらい希少疾患の治療薬開発にも着手してきた。

 またHIV、結核、マラリアの3大感染症に関する治療薬やワクチンを開発するほか、エボラ出血熱やジカ熱など発展途上国における感染症のワクチン開発にも力を注いでいる。

 さらに医薬品やワクチンを、LDCでは通常の25%以下の価格で販売するほか、本来は企業の財産として守られる製造特許もLDCには開示するなどの措置も実施している。

 そうした革新的な取り組みの中でも、製薬業界のみならず医療界全体を驚かせたのが、MRの評価制度から売上目標をなくしたことと、医師への講演謝礼の支払いをやめたことだ。

 長年、続いてきた業界慣習をなぜ見直したのか。

 「売上目標をなくしたことは、本来のMRの役割を考えれば自然な進化です。MRの役割とは製品に関する科学に基づいた情報を医師に提供すること。売り上げの数字より、正しい情報が伝えられているかどうかが重要です」

 「しかし数字にならない部分をどう評価するかというのが課題でした。業界全体にとってもこのビジネスモデルに進化するのが自然だったと思います」

 「医師の側に立ってみても、処方を増やすと収入が上がる立場の人が目の前にいるとどう思われるでしょうか。つまりMRの情報の信頼性を保つうえでも、彼らの評価から売上目標を切り離すことは重要だと考えました」

 「GSKのMRは、どのような患者さんにどのようなタイミングで使うのが適正なのか、正しく薬の情報を伝えてくれる人たちなのだと認識してもらいたい、そう考えたのです」