2009年の米ニューヨーク市場の株価は急騰で開幕したものの、メガバンクの窮状を目の当たりにすると、瞬く間に失速してしまった。金融コングロマリットの象徴と言うべきシティグループが解体の道を突き進み、メリルリンチ買収で「世界最大」の称号を手に入れたばかりのバンク・オブ・アメリカが17年ぶりの赤字決算発表に追い込まれた。金融危機のマグマがいつ再び噴出するとも知れぬ現実に直面し、年明け新規投資でにぎわった「ご祝儀相場」は冷や水を浴びせられた。
米金融機関に新たな打撃を与えているのは、回復の兆しの見えない景気後退(リセッション)だ。不動産投融資の損失に加え、クレジットカードや自動車ローンなど小口融資の焦げ付きが予想以上のスピードで増殖している。安定を取り戻すかに見えた金融システムは、国民の期待を背負うオバマ新政権の力量を試すかのように再び揺らぎ始めた。
金融恐慌が目前まで迫って来た昨秋に比べれば、状況は改善している。連邦準備制度理事会(FRB)は空前のゼロ金利政策に踏み切り、金融機関への公的支援体制もある程度は整った。しかし、明日をも知れぬ恐怖の代わりに、「先が見えない不安」(銀行アナリスト)が台頭している。
シティ解体、日本も金融再編へ
こうした中、「シティグループ2分割」のニュースが流れると、ウォール街には衝撃的が走った。総額450億ドル(約4兆円)の公的資金注入を受けてもなお、2007年夏からの累計が800億ドル(約7兆2000億円)を超えた損失処理に歯止めが掛からない。
このため、会社分割に先立ち、シティは「虎の子」である個人向け証券子会社スミス・バーニーをモルガン・スタンレーに売却することを決定。その瞬間から、1998年に銀行大手シティコープと保険大手トラベラーズの大合併で誕生した「金融帝国」の崩壊は時間の問題となった。
中核事業と非中核事業を分けるシティ解体は当然の成り行きと捉えられている。生き残りの柱となる中核部門に旧社名「シティコープ」を復活させ、預金と融資を基本とする伝統的業務に回帰しようという姿に対し、市場では「ようやく決断したか」との思いが強い。
米国では話題にもならないが、大きな余波を受けるのは日本。日興シティホールディングス傘下の日興コーディアル証券は「世界戦略に組み込まれていない」(シティのパンディット最高経営責任者)ため、資産運用会社の日興アセットマネジメントとともに非中核部門の「シティ・ホールディングス」に移管されてしまう。
シティ・ホールディングスは、お荷物の消費者金融事業にばかりか、米政府が保証付与した不動産絡みの不良資産もすべて抱え込む。要するに、収益の上がらない事業ばかりを集めた「ダメ会社」。したがって、シティは、銀行と法人向け証券業務を除き、日本市場から手を引く公算が大きい。従来路線を180度転換させたシティのスリム化戦略は、日本の金融再編に火を付けるだろう。