原発事故後の福島県で、子どもの甲状腺がんが相次いで見つかり、手術もおこなわれているというニュースは少なからぬ衝撃を持って全国に伝えられました。
甲状腺がんは、他の臓器のがんとくらべて進行が遅く、またリンパ節への転移があっても10年後の生存率がとても高く、予後の良いがんと言われています*1。
しかし福島県でこれまでに発見されたがんの症例数の多寡については、明らかに多いという人、驚く必要はないという人、専門家の間でも、さまざまな議論が交わされ、結論の出ない状況が今なお続いています。
そのような中、福島県は、「県民健康調査中間とりまとめ」*2を2016年3月末に公表し、2011年10月より実施している甲状腺がん検査について、「日本全国における甲状腺がんの発症数などから推定される数よりも、数十倍多い患者数が存在している」と結論づけました。 しかしながら、その原因については「放射線の影響とは考えにくい」としています。これらを一体どのように解釈すればよいのでしょうか?
本稿では、福島県における甲状腺がん検査データの読み方について、専門家の間でどのような議論がされてきたのか、主要な論点の解説を試みます。そして、考えるための材料がそろったところで、社会として現状をどのように捉え、今どのような判断を下すべきなのかを考えます。
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