また、グエン氏は本論文で、東南アジアをはじめとするアジア全体の安全保障が今後20年、30年という長期展望でどのような枠組みになるかという予測を、以下のような複数のシナリオとして提示した。

(1)米国とアジア諸国の同盟関係が主体であることは変わらないが、米国は軍事、経済の両面で関与の規模を減らしていく。

(2)中国が圧倒的なパワーで拡大を続け、東南アジア諸国も中国の影響下に入り、対中協調姿勢を強めていく。

(3)東南アジア諸国が自主的に軍事や経済の力を強め、地域の安全保障の主役となる。

(4)日本が中心的な役割を果たし、米国との連携を保ちながら、東南アジア諸国との協力をますます強めていく。

 グエン氏は以上のシナリオのなかで、東南アジア諸国が求めるのは(3)だが、その場合にも日本の関与や協力が不可欠であり、実際には(4)が最も現実的だとしていた。

日本の関与が東南アジアに自信と一体感を与える

 グエン氏は総括として、日本の東南アジアへの深い関与が現在も同地域の諸国から歓迎されている点を、以下のように強調する。

「東南アジア諸国は、日本の東南アジアへの積極的な関心と関与が自国にとって大きなプラスになると歓迎している。日本が安全保障と経済の両面で連携を強化することは、東南アジア諸国に自信と一体感を与える。これにより、日本にとっては、自国を利する大きな機会が開けることになる。アジア、太平洋地域でこれからの国際秩序を形成することは特に日本にとって重要だろう」

 日本の外交政策論議で語られることの少ない東南アジア政策が、米国で東南アジアの立場を代表するような学者から高い評価を受けている。我々もこの事実は注視すべきであろう。