中国国防白書、空海の軍事力拡大を打ち出す

南シナ海の南沙諸島(英語名:スプラトリー諸島)に位置するミスチーフ礁で中国が進める埋め立ての空撮写真(2015年5月11日撮影)〔AFPBB News

 米国防省は、2月9日にFY 2017(2017会計年度)の国防予算案を発表した。今回の国防予算案にはいくつかの特徴がある。

 第1に、国防省予算案の中で、国外作戦予算は大幅に増額されたが、これを除いた基本予算(一般予算)はマイナス1.9%と抑制的である。

 第2に、予算要求の背景となる国防省の脅威認識として5つのチャレンジ(ロシア、中国、北朝鮮、イラン、ISIL*1)を列挙しつつも、特に中国とロシアの脅威を強調し、大国間の競争(great power competition)を打ち出した点である。

 第3に、その結果として、中国およびロシアに対する中長期的な軍事的・技術的優越を確保するための第3次相殺戦略(The Third Offset Strategy*2) 関連の研究開発予算を重視した点である。

 第4に、中国やロシアとの大国間の競争の表明や第3次相殺戦略の重視は、国防省とバラク・オバマ大統領の意見の対立を背景として、国防省の強い意志の表明である。

 本稿においては、今回の国防省予算案で特に注目された第3次相殺戦略に焦点を当てて記述する。この第3次相殺戦略は、特に中国の接近阻止/領域拒否(A2/AD: Anti- Access/Area Denial)に対抗するために登場した。

 結論的に言えば、第3次相殺戦略は、2014年末に登場した時の革新的な内容をより現実的な内容に変化させつつも、FY 2017予算案の中で具体的な事業となっている。この相殺戦略は、我が国の安全保障を考える際に極めて重要な戦略であるために、本稿で取り上げることにした。

1 国防省予算要求の概要

 図1は、FY(会計年度)2001からFY 2017までの国防予算の推移を示している。

図1「米国防予算の推移」 (出典:米国防省ホームページ)

 FY 2017の国防予算は図1の通り約5830億ドル(正確には5827億ドルで、基本予算と国外作戦予算の合計)であり、FY2016予算要求額比でマイナス0.4%である。

*1=いわゆるイスラム国(ISやISIS)のこと。米国政府はISIL(Islamic State in Iraq and the Levant)しか使用していないので、本稿ではイスラム国をISILと記載する。

*2=相殺戦略とは、「我の優位な技術分野を更に質的に発展させることにより、ライバル国(中国やロシアなど)の量的優位性を相殺(オフセット)しようとする戦略」である。