インドネシア語で「プンバントゥ」とはメイド(家事労働者)のこと。このプンバントゥの海外派遣はこれまでインドネシアの輸出産業の要として同国の経済成長を下支えしてきた。
高い失業率の打開のため国策としてスハルト政権時代(1979年)に始まったこの「メイド産業」は、今では500万人に迫る人材を海外に派遣するまでに成長した。
彼女たちが稼ぎ出す年間約80億ドル(約9500億円)は、インドネシアにとって欠かせない貴重な外貨収入となっている。
今やインドネシアは世界でも有数の出稼ぎ大国の1つとなった。
21カ国・地域への派遣を禁止
インドネシア政府によると、2014年に海外に渡航した労働者は約43万人で、そのうちメイドが最多の13万人。マレーシアを筆頭に、台湾、サウジアラビア、香港などが主要な渡航先だ。
しかし、ここに来て、異変が起きている。
2015年、インドネシア政府は、主要派遣先のサウジアラビアを含めた中東諸国を中心に21カ国・地域へのインドネシア人メイドの派遣を禁止すると発表したのだ。
2015年9月に塩崎恭久厚生労働相と労働・社会保障制度について協議するため日本を訪問したこともある雇用労働・社会保障担当省のハニフ・ダギリ労働相は次のように述べて憤りを露わにする。
「海外で家事労働者(メイド)として就労するインドネシアの出稼ぎ労働者は、人権侵害、労働基準や規則違反などの問題にさらされるケースが多くなっており、人としての尊厳、あるいは国家の名声が傷つけられた場合、インドネシア政府は労働者派遣を禁止する」
国際人権保護団体などの調べでは、サウジは2010年頃まで世界最大の海外出稼ぎ受入国でインドネシアからは100万人以上が就労。そのほとんどがメイドだ。
これまでも、特にサウジアラビアを含むイスラム圏でのインドネシア人メイド(ほとんどが女性)への雇用主によるレイプなどの性的虐待や「不眠不休かつ無給」の強要など、劣悪な労働環境下での深刻な問題が長年、最大の懸案事項だった。