1. 李克強指数とは
李克強指数から判断すれば中国の成長率はもっと低いはずだという見方に対し、これまでもしばしばその誤りを指摘してきた。
しかし、最近になっても、政府機関、有識者、メディア報道等において、李克強指数で中国経済を判断している例は枚挙にいとまがない。そこで改めて、この問題について論点を整理してみたい。
李克強指数というのは、以前李克強総理が総理に就任する前に、中国の経済指標で信頼できるのは、電力消費量、鉄道貨物輸送量、中長期の銀行貸し出しの3つであると述べたことから、このような名前が付けられた。
結論から言えば、李克強指数を見て中国経済を判断できた時代は過ぎ去った。10年前であれば、ある程度意味のある指標だった。
その後、中国経済の構造は大きく変化したため、今では李克強指数を見て判断すれば、確実に実体経済に比べて下方バイアスがかかる。したがって、中国経済を客観、中立的に分析する場合には李克強指数を用いるべきではない。以下ではその理由を説明する。
2.中国経済のサービス化
李克強指数に含まれる3つの指標のうち、電力消費量と鉄道貨物輸送量は製造業の生産動向に左右されやすい一方、サービス産業の動向は反映しにくい。
製造業の生産拠点は高炉、造船所、石油化学コンビナート、自動車工場、半導体工場など電力多消費型である。サービス産業の生産拠点であるオフィスビル、商店、レストラン、病院、学校などに比べて電力消費量が桁違いに大きい。
また、鉄道貨物は製造業の生産に必要な原材料や生産された製品を運ぶ手段であり、サービス業にはほとんど無縁である。
このように、電力消費量と鉄道貨物輸送量は製造業の生産動向を判断するのに適した経済指標である。したがって、製造業の動向が中国経済の動きを代表していた時代には、李克強指数は中国経済を判断するうえである程度有益な指標だった。