生物進化は、おそるべき創造を成し遂げた。化学物質から生じた生命は、進化を通じてどんなデザイナーにも描き出せない多様で斬新なデザインを生み出し、どんな技術者にも到達できていないエネルギー変換技術と生命機械を創り出し、人工知能ですらかなわない学習能力と知性を生み出した。

 このような進化的創造は、いったいどのような原理で成し遂げられたのだろうか。

進化が生み出した驚異的なデザイン

 まずは私が生物進化を研究することになったきっかけから話を始めよう。

 私が進化に興味を抱いたのは、中学1年生の7月のことだ。福岡市近郊の山で「ナツエビネ」という野生ランの花と出会ったことが、私の運命を変えた。

ナツエビネの花(Wikimedia Commonsより)

 ナツエビネの花は私が知っていたどんな園芸ランの花よりも美しく、そしてデザインがすばらしかった。そして、これほどの美しさとデザインを兼ね備えた花が常緑樹林の下に野生しているという事実、すなわちその花が自然界における進化の結果生み出されたという事実に驚かされた。

 この衝撃がきっかけとなって、その後私は生物進化の研究に携わることになった。最近では東南アジア熱帯林の調査を通じて、さまざまな野生ランに出会うが、その多様なデザインにはいつも驚かされるばかりだ。ランは園芸用に改良され、さまざまな色や形の花が作り出されているが、人間がほどこしたデザインの修正は、野生ランが進化の結果生み出したオリジナリティに遠く及ばない。

 大学時代に友人を通じて知ったウミウシのデザインのすばらしさも、筆舌に尽くしがたい。最近では、ウミウシ観察がダイバーの間で普及し、「ピカチュウウミウシ」「イチゴミルクウミウシ」「パンダツノウミウシ」などの親しみやすい和名がつけられている。

 ナショナルジオグラフィック誌のウェブサイト(こちら)に充実したフォトギャラリーがあるので、ぜひ訪問して、進化が生み出した自然の造形のすばらしさを堪能していただきたい。

人知をはるかに凌駕する機能

 生物進化は、デザインだけでなく機能の点でもすばらしい創造を成し遂げた。糖の分解によってエネルギー分子を効率よく生産する仕組みや、太陽エネルギーを使って二酸化炭素と水を炭水化物に変える仕組みは、人類の技術がまだ遠く及ばないイノベーションだ。