2010年9月上旬、ロシア大手銀行や外資系投資銀行のエコノミスト、主要企業関係者と、ロシア経済の現状と今後について意見交換するためモスクワに出張した。ロシアはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国の中では金融危機による経済の落ち込みが最も大きく、立ち直りも遅れていた。

 しかし、ようやく2010年4-6月期GDPが前年比5.2%のプラス(1-3月期2.9%)となり、景気回復が鮮明になってきた。今回の出張では、その回復軌道が確かなものであることを確認するとともに、金融危機がロシア経済にもたらした変化を垣間見ることができた。

ロシア経済回復の背景

 ロシアの経済は石油とガス関連が輸出の約3分の2を占める、資源に過度に依存した構造だ。資源高を追い風に、2008年までは経常収支も財政収支も黒字だった。しかし、リーマン・ショック後の世界金融危機の影響で2009年初に原油価格が30ドル台まで急落すると、たちまち双子の赤字を抱えてしまった。

 ロシアの経常収支の均衡ポイントは原油価格60ドル程度と言われている。2009年にGDP▲7.9%のマイナス成長を記録し瀕死の状態にあったロシア経済は、原油価格が2009年末までに70~80ドルの水準まで回復したことで、2010年になってようやく息を吹き返してきた。

よりバランスの取れた経済へ移行中

豊かな消費ぶりを感じさせるモスクワ市内の24時間営業のスーパーマーケット(筆者撮影)

 経済回復のエンジンとなったのは資源価格の上昇だが、同時に個人消費が力強く立ち直りつつある点を指摘する声も多い。

 消費の押し上げ要因となっているのは、(1)インフレ率が歴史的な低水準である5.5%(7月)で落ち着いていること (2)堅調なルーブル相場が家計の購買力を増加させていること (3)失業率が1月の9.2%から6月には6.8%まで低下したこと (4)海外からの移住者が増えていることなどだ。