ロシアが米国の支援するシリア反政府勢力を標的に空爆を繰り返し、米国の中東政策を台無しにしている。この状況は米国のテレビ番組で頻繁に放映され、ウラジーミル・プーチン大統領の決断力やロシアの作戦に対する驚きと関心の高さを示唆している。
また、アジアでは中国が南シナ海において人工島を建設し、軍事化の動きを進めているし、中国によるサイバー戦の脅威も深刻である。
かかる状況において、バラク・オバマ大統領の対外政策に対する厳しい批判は米国内のみならず、米国の同盟国や友好国からも聞こえてくる。
果断なプーチン氏との対比においてオバマ氏は弱い指導者だと批判されやすい。その批判の一部は適切かもしれないが、彼らのオバマ氏批判の多くは的外れであり、もっと冷静で戦略的な議論が必要である。
本稿においては特に以下の3点を指摘したい。まず、米国には世界の諸問題すべてを解決する能力はないし、それを米国に要求することは酷である。
第2に、ロシアのシリアでの軍事活動は、一時的に米国の面目をつぶす形になったが、プーチン大統領による軍事力の行使は、ロシアの国益に基づく冷静な判断ではなく、冷戦終結後に米国をはじめとする西側諸国から受けてきた屈辱を晴らし、ロシアが大国であることを世界に示したいという感情に基づく不適切な判断である。
航空機や攻撃ヘリに対する兵站の困難さ、反政府ゲリラによる反撃と相まって、いずれ失敗するであろう。米国内では、お手並み拝見という意見が一定の支持を得ている。
第3に、いずれの国の対外政策も、国益に基づく優先順位に基づいて戦略的に遂行されるべきものであるが、オバマ大統領はそれを守っているので、慎重な対外政策と評価されやすい。
米国の対アジア太平洋重視という決定は米国の死活的に重要な国益に基づいている。シリアを含む中東の優先順位およびウクライナを巡る欧州の優先順位は、米国の国益の観点で評価すると低く、中国への対処を最優先にすべきである。
米国は万能なスーパーパワーではない
米国はもはや世界のあらゆる問題を解決できる万能なスーパーパワーではないという事実を忘れてはいけない。米国単独では諸問題の解決は難しく、世界中の協力が不可欠である。
しかし、多くのオバマ大統領批判論者の主張を聞いていると、「米国は、すべてに対処せよ。アジアの中国にも、中東のイスラム国にも、ウクライナやシリアで軍事行動を繰り返すロシアにも対処せよ。それも言葉ではなく強い行動で対処せよ」と言っているに等しい。