カジュアル衣料店「ユニクロ」を主軸に2015年8月期に達成した1兆6800億円の売上高を、2020年には5兆円にするという野心的な目標を立てるファーストリテイリング。「世界一のブランド」を目指す中で柳井正社長が今、注力しているのがデジタル・イノベーションを活用した経営の革新だ。
「デジタル技術は今、驚異的な速さで産業界に変革をもたらしている。製造業、小売業といった業種の境い目が消滅する形で生産、物流、販売が進化している。今後2年間のマーケティングの変化は過去半世紀を上回る」と予想。現在同社で5%のeコマースの売上高比率を今後3~5年で30~50%に拡大させる方針だ。
単にネットで注文するだけではない。将来的には、顧客が独自デザインの衣料品の画像をネットで送ると、その製品を瞬時に工場で生産し、即日宅配するといったサービスの導入も検討している。
「IT化とグローバル化は世界の2大トレンドであり、今後勝ち残るのはそれを先取りした企業だ」と見る柳井社長。「政府もそれに着目した政策を推進しなければ日本経済の成長はない。規制緩和と行政改革の徹底が不可欠なのに、掛け声ばかりで具体策が乏しい」とアベノミクスを批判する。
グローバル経営で気になるのはバブル崩壊がささやかれる中国経済。ファストリも今後の最大の市場を中国に置いているだけに、大きな懸念材料だが、「中国は生産主導から消費主導に政策転換する途上にあり、消費市場は拡大する。心配していない」と楽観的だ。
柳井社長に「IT・グローバル経営、中国経済の行方、アベノミクスのあり方」を聞いた。
融合が大きく進む実店舗とネットの世界
井本 9月5日に掲載された日本経済新聞のインタビュー記事で、柳井社長は「1年に数百店も出すのが本当に良いのか考え直している。社員や経営者が育っていないのに、店を出すのは良いことだろうか」と述べています。
ネット通販が世の中に普及する中で、リアル店舗の出店はもはや限界と見ているのですか。
柳井 いや、そういうことじゃありません。リアル店舗の出店はこれまで通り重要です。しかし、今やネット上でも商品は豊富に提供され、価格もデザインもすべて鮮明な画像で見ることができる時代です。ネットには各商品に対する顧客の評価、コメントまで掲載されており、どんどん便利になっています。
それでも、消費者に来店してもらうのに実店舗はどうすべきか? やはりお客様が店内で楽しさを体験できるようにすることが一番でしょう。
マネキンが着ているTシャツやブルゾンやチノパンの新製品を自分の目で見、それらを棚から取り出して手で触れる楽しさです。ネットでは味わえない。店内照明や商品のレイアウトそのものにもショッピングの楽しさがある。接客のおもてなしも含めてそういう店舗にしないとダメだということです。今までもやってきましたが、これまで以上の工夫、演出、接客が重要になるということです。