中国、抗日70年行事で新型ミサイル初披露 「空母キラー」と紹介

中国・北京の天安門広場で行われた抗日戦争勝利70年を記念する軍事パレードに登場した新型対艦弾道ミサイル「DF-21D」(2015年9月3日撮影)〔AFPBBNews

 9月3日、「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70年記念式典」が、北京の天安門広場で挙行された。中国人民解放軍総参謀部作戦部の 曲睿・副部長は8月21日、1万2000人が習近平中央軍事委員会主席(国家主席)の閲兵を受けると発表した。

 500以上の装備と200機近い航空機が登場するが、展示されるのはすべて国産の主力兵器で、84%は初公開だという(『時事ドットコム』8月21日)。

 この時期に、どのような狙いがあって、習近平政権は、抗日戦争勝利を祝う軍事パレードを 行ったのであろうか。

 抗日戦争勝利を祝うこと が軍事パレードの目的とされている以上、日本への影響は看過できない。国内政治、軍事戦略の両側面から、その意義を分析する。

1 最大の狙いは江沢民元主席

 今回のパレードの列席者で最も驚くべきことは、江沢民元国家主席が列席し、習近平氏と談笑している場面が見られたことである。江氏が登場した際には、約4万人の参加者の間からどよめきが起こった。

 今回の軍事パレードに先立ち、7月以降の株価の急落、8月12日の天津の大規模な爆発事故など、不安定な国内情勢を裏づけるかのような 異変が続発した。株価の下落については、江沢民派が画策し、意図的に大量の売りが出て、株価急落のきっかけを作ったことが疑われている。

 天津の爆破事故についても単なる偶発事故ではなく、その当事者の企業と管理当局の責任者が江沢民人脈につながっていると噂されている。

 数カ月前に天津市の公安局長が逮捕された、その報復とも見ることができる。爆発事故については、天津の事故以降も、9月上旬にかけて、 山東省など5カ所で、化学工場、花火工場などの事故が相次いで起きている。

 このように同種事故が続発するのは、単なる 偶然とは言い切れない。反腐敗闘争で標的となった江沢民派が、習近平体制に対する揺さぶりをかけたとされる見方も流された。真偽のほどは確認できないが、その可能性は否定できない。

 党指導部が、健康に問題がない長老たちは全員出席すると事前に決めていたとの報道もある (『読売新聞』9月5日)。それだけに、江氏には、健康を理由に欠席するという選択肢があったにもかかわらず、あえて出席をしたことは、ある意味で江沢民派の敗北を示唆しているのかもしれない。

 これを裏づけるように、9月4日付の『人民日報』は、1面から16面まで、「抗日戦争・ 反ファシズム戦争勝利70年」記念式典に関する報道で一色になった。

 1面の写真は、天安門城楼で演説する習近平国家主席と習主席の閲兵の様子を並べ、習主席の「一人舞台」を強調した。他方、記念式典に出席した江沢民元主席ら長老の写真はなかった(『時事ドットコム』 9月3日)。

 江氏の出席は、健在ぶりを誇示したというよりは、習氏が江沢民派の抵抗を抑え込み、独裁権力をさらに固めたことの表れであり、習氏を中心とする党の団結を示したとも言えよう。

 反面、江沢民派の譲歩の代償として、腐敗汚職摘発に名を借りた江沢民派に対する厳しい締めつけは、緩和されるかもしれない。今後、 国内での原因不明事故の多発、経済混乱などが 深まるか、安定化に向かうかが注目される。

 国内が安定化に向かえば、習近平独裁体制が確立され、習氏がかねて提唱している、「中華民族の偉大な復興」、「富国強軍」に向けた統治が本格化することになる。

 しかし、江沢民時代に築かれ、その後、党、軍や国営企業に根を張った利権構造は巨大かつ複雑であり、簡単に一掃できるものではない。すべてを失うことになる抵抗勢力も全力で反撃を試みるであろう。今後とも、反腐敗闘争は大な り小なり継続され、江沢民派などの執拗な抵抗 は継続する可能性が高い。

 胡錦濤前主席も軍事パレードに列席していたが、健康状態はすぐれず、習近平派の反腐敗闘争でも、 一部の悪質な汚職事案を除き、胡錦濤派は摘発対象にはなっていない。むしろ、胡錦濤派は、李克強首相を通じて経済面での実権を握り続けることに重きを置き、習近平派とも協調関係にあるように見える。

 人民解放軍は、党の軍隊であり、国軍ではない。現在の中国の国防制度では、毛沢東以来、人民解放軍に対する最高指揮・統帥権は、中央軍事委員会主席のもとに集中統一されている。

 胡氏は、鄧小平氏、江氏と異なり、中央軍事委員会主席に居座らなかった。胡氏は、江氏のように、党総書記と国家主席を退任した後も、中央軍事委員会主席に留まり、隠然たる権力を維持して 院政を敷こうとはしなかった。

 胡氏は党総書記時代に、人事権を長らく江氏に牛耳られ、意図した改革を思うように進められなかった。胡氏としては、江沢民派の利権構造打破のため、習近平派と手を握っていると見ることができる。

 胡錦濤前主席の退任に伴い、中央軍事委員会主席にいち早く就任した習近平は、これまでの慣例を破り、2019年の中華人民共和国建国70周年の国慶節に行うべき軍事パレードを、今年の抗日戦争勝利70年に繰り上げて実施した。9月3日の抗日戦争勝利記念日が、国家的な記念日に格上げされたのは、昨年2月のことである。

 習主席が、記念日を格上げまでして、繰り上げて軍事パレードを行った狙いは、軍権掌握の事実を国内外、特に、江沢民派などの守旧派に見せつけて、独裁権力確立を誇示することにあったと見られる。