日本経済新聞社が1600億円の巨費を投じて、英国の高級紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」を買収する。各紙はかなりのスペースを割いてこのニュースを報道したほか、本来、メディアとは一定の距離を置くべき政権幹部までもが賞賛コメントを出すなど、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっている。
こうした巨額買収は、世間の耳目を一気に集めることになるため、一種の昂揚感のようなものが醸成されがちである。だが、世紀の大型買収と騒がれたものの、十分な成果を上げられなかったケースは過去にいくつもある。日経によるFT買収は大きなニュースではあるが、ここは冷静な対応が必要だろう。
はっきりとした戦略が見えない今回の買収劇
日本経済新聞社は7月23日、英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を買収すると発表した。買収金額は、8億4400万ポンド(約1600億円)で、日本企業よる海外メディアの買収としては過去最大規模。これまで日本の大手メディアは国内市場に特化してきたことを考えると、海外名門紙の買収は1つの転換点と言えるかもしれない。だが、大きな話題性とは裏腹に、買収の狙いが今ひとつはっきりしないというのも事実だ。
日経は、FTを通じてデジタル化とグローバル化を進めていくと説明しているが、具体的に同社のグローバル戦略にFTがどう連携していくのか、はっきりとした見通しが示されているわけではない。M&A(企業の合併・買収)は、限られた時間の中で決断を下さなければならないことが多く、買収してから具体的な戦術を考えるというケースはよくある。だが、戦略という根本的な部分でミスをしてしまうと、それを戦術でカバーすることは不可能に近い。今回のFT買収が、本当に明確な戦略に基づいて決断されたものなのか、何とも言えないというのが現実である。