ミラー 武者リサーチ、ディレクターのミラー和子です。こんにちは。今回は、アジアインフラ投資銀行に51カ国・地域が参加した問題について考えてみたいと思います。米国がボイコットを呼びかけてきた中、欧州G7も参加するということで、大変意外な展開です。

(1)覇権国米国の初めての屈辱

武者 そうですね。今、非常に大きなホット・トピックはこのアジアインフラ投資銀行(AIIB)をどう考えるかということだと思います。ここまで世界各国が参加するということは誰もが想定できなかったことです。今回はAIIBの展開をどう理解すればいいのかということを少し考えてみたいと思います。

 端的に言って、アメリカの中国に対する政策は、Engagement and Hedging、つまり関与と防御という2つの戦略を交互に活用しながら対応してきたと思います。このEngagement and Hedgingというアメリカの中国に対する対応の中で、中国が提唱したアジアインフラ投資銀行に対するアメリカの対応は、どちらかというとEngagementではなくて、Hedgeと言いますか、それはむしろ排除しようとする動きを当初から採っていたと思います。

 ところがここに来て、アジア諸国だけでなく、何とG7の中でもヨーロッパの全ての国、アメリカの最も重要な同盟国であるイギリス、それからドイツ、フランス、イタリア。これらが全部参加する。何と、アメリカにとってさらに重要な同盟国であるイスラエルまでもが参加するということで51カ国地域の参加が明らかになったことによって、中国を抑え込もうとするHedge政策は、見事に失敗したと言っていいと思います。

 これは、アメリカの外交にとっては大きな屈辱と思われます。アメリカのリーダーシップが損なわれ、中国の新たな秩序作りが成功したということによって、一見中国がずっと前からアメリカに求めていた新型の大国関係、つまり、アメリカと中国、2大大国、G2が世界の秩序を担うという主張――これまでアメリカはそれを認めてこなかったわけですけれども、事実上それを認めざるを得ないという状況になってしまった。

(2)中国のAIIB創設提案が成功した理由

ミラー これは歴史的な転換点ということでしょうか? 米国の一極覇権の終わりと言いますか、そういうことなんでしょうか?

武者 そうですよね。これまではアメリカが世界の全てルール作りの中心にあり、アメリカの意向に沿って動いてきたわけです。このことをとってアメリカの一極支配の終わりとか、アメリカの衰退の始まり、中国の台頭の始まり、という風に世界の秩序そのものがこれをきっかけとして変わるのだという見方が出ているということは事実です。ただし、私は、そのような見方は著しく的を外していると思います。

 おそらく今回のAIIBの中国のイニシアティブが成功したのには、2つの理由があったと思います。1つは、世界にそういう需要があったということです。しかし、既存のIMFや世銀体制は、そのような世界の需要に十分応えられていなかったということがあったと思います。