平成26年11月現在、刑務所の医師不足が深刻な事態となっている。定員332人に対して260人と72人が欠員で、52の刑務所・少年院・少年鑑別所で医師が不在または不足しているため法務省がホームページやインターネットで医師募集を行っているが一向に集まる様子がない。
刑務所医師不足の原因の1つとして平成16年4月から施行された新臨床研修制度が挙げられる。大学や一部の総合病院だけでなく多くの民間病院で初期研修医が受け入れ可能となったためだ。それにより研修医の争奪戦となり、大学で研修する医師が少なくなったため医局が関連病院に派遣していた医師を引き揚げ地方の病院が医師不足になった。そして刑務所もその影響を多少なりとも受けているものと思われる。
刑務所の医師不足の実態は深刻である。平成18年に最大約8万人の受刑者を収容していた刑務所は平成24年現在約6万8000人まで低下しているが、罹患率は67.2%も上昇している。受刑者3人に2人は何らかの病気にかかって収容施設で治療を受けている状況である。常勤医師が不在の施設では、受刑者が急変した際に外部病院に搬送しなければならず、その件数や延べ日数が右肩上がりで、さらに刑務所での医療費も平成16年度に比べて現在は約60億円と2倍に膨れ上がっている。
網走刑務所では25年1月に約200人がインフルエンザなどに感染し2人が死亡した。東日本の刑務所医療の最後の砦である八王子医療刑務所は平成26年11月現在医師6名が欠員となっており、刑務所に入所できず待機している透析患者が100人以上もいるとのことである。また、東日本の各刑務所から重症患者の搬送依頼が八王子医療刑務所に集中しているが医師不足のため依頼があっても受け入れができない。そのしわ寄せとして全国の刑務所から大阪医療刑務所に搬送依頼があるもののすぐには対処できないようだ。
刑務所で働く医師の役割はとても大きい。受刑者がきちんと刑期を全うできるように新たな病気を発生させない、万一感染症などが発生しても集団感染を食い止める、収監前からある持病を悪化させないようにするのはもちろんのこと、様々な疾患や怪我に対応し出来るだけ所内で治療を完結させることが求められる。しかし、多くの刑務所には診療所や病院に常備されている簡易検査キットや血液検査装置、医療機器の類はあまりない。たいていあるのは聴診器、血圧測定器、打腱器などのシンプルなものばかりで最近になって施設によっては耳鏡などがあるくらいだ。検査機器は簡易血糖測定器、心電図(自動解析装置がない場合も)、白黒の超音波装置、単純レントゲン撮影装置だけで血液検査はほぼ全て外注である。