本コラム「イノベーションを斬る」でも繰り返し指摘されているように、日本企業は「価値づくり」に問題がある。日本のエレクトロニクスなどに顕著な問題は、「技術力は高いが、顧客が求めていない技術をしのぎを削って開発競争しており、本当の価値を創れていない」という点にある。

 しかし、本当に、この「技術力は高いのに・・・」という前提は正しいのだろうか。また、今後も日本は高い科学技術力を保ち続けられるのだろうか。

 日本企業は、サービスや製品の付加価値を高めていかなければ、競争優位を失い続けてしまう。そして、この高付加価値化において重要な基盤となるのが、「科学技術力」である。最近、バイオテクノロジーやエレクトロニクスに代表されるようなサイエンス型と呼ばれる産業が注目を集めている。そこでは、基礎的な科学技術力が重要な役割を担っている。

 もちろん、科学技術力は競争力の一輪であり、それを価値へとつなげる戦略がなければならない。だが、この「高い」科学技術力に変化が起きているとすればどうだろう。

 国の科学技術力は多面的であり、その全てをここで議論することはできない。ここでは、日本の科学技術に1970年代後半から起きている変化の1つを取り上げ、それが日本のイノベーションシステムに長期的に与え得る影響を考えてみたい。

 日本のGDPに占める研究開発投資は90年代に入り3%を超え、米国やドイツ、OECD諸国と比べても高い水準にある。長引く不況の中でもなんとか研究開発費を捻出してきた日本の姿が窺える。しかし、その用途を見てみると、基礎研究の縮小という重要な変化が見られるのである。

「基礎的な研究が弱い」と言われてきた日本の科学技術

 研究開発は、その性質から、大きく「基礎」「応用」、そして「開発」の3つに分けられる。

 基礎研究とは、特別な用途や応用を直接に考慮することなく、新しい知識を得るために行われる理論的、または実験的な研究である。

 応用研究とは、基礎研究より発見された知識を、特定の目標を定めて実用化する可能性を探るものである。

 そして開発研究とは、新しい材料、装置、製品、システム、工程などの導入や改良を目的とするものである。

 基礎研究から開発研究に向かうに従って市場が近くなってくるイメージである。また、一般的には、基礎研究が最も時間がかかる上に、不確実性が高いと言われている。

 日本の科学技術に関しては、これまで「応用・開発は強いが、基礎的な研究が弱い」と言われてきた。これが本当に正しいのかどうかは、また別の検討が必要である。しかし、一般的に広く知られた認識であろう。