森林ノ牛乳/前田せいめい撮影「森林ノ牛乳」の小瓶。120ミリリットル250円(税込) (筆者撮影、以下同)

 500ミリリットル入りのビン牛乳が630円。1000ミリリットル紙パックの「加工乳」を見慣れた目には、とんでもなく高級品に映る。だがこれがよく売れる。

 デパートの売り場に並べられればたちまち完売、牛乳好きを自任する人たちのブログには、その味わいに驚き喜ぶ言葉が並ぶ。

 高級リゾート施設として知られる星野リゾート「星のや 京都」では2009年12月の開業に先立ち、施設内で提供する指定銘柄という重要なポジションにデビューしてまだ間もない時期にあったこの牛乳を採用した。

森林ノ牧場 那須/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須/前田せいめい撮影(上)12月。からだに雪が吹きつける冬も平気 (下)8月。体毛も涼しげな夏毛に生え替わっている。寒さよりも暑さの方が苦手らしい

 この「森林ノ牛乳」を生み出す「森林ノ牧場」では、中山間地の森林での周年放牧「森林酪農」を実践している。

 周年放牧は九州、沖縄など暖地での実施が多いが、冬季に積雪がある地域での実施も研究されている。ただし、乳牛(酪農)に関しては牧草地に適した平坦な土地での実施が主要となっており、冷涼な地域の、しかも森林で行う例は珍しい。

 意識的な酪農家が長年の経験と研究をもとに「高くても売れる」「良質な」牛乳づくりを志してのことかと思いきや、森林ノ牧場は2007年12月に京丹後(京都府)、2009年7月に那須(栃木県)でオープンしたばかり。

 さらに、牧場を運営するアミタは資源リサイクルをコアとする環境ビジネスの会社であり、環境に関わる事業に取り組む中で牧場経営が浮上してきたという異業種からの新規参入組である。

 「持続可能社会の実現」をミッションとするアミタの事業の中で、森林酪農はどのように位置づけられるのか。アミタホールディングスの熊野英介会長に話を聞いた。(聞き手は川嶋諭JBpress編集長)

「森林ノ牧場 那須」取材記事「森と牛と人の循環『森林ノ牧場』~『森林ノ牛乳』が生まれるところで牛に舐められる」も併せてお読みください

経済性だけでは豊かさは手に入らない

熊野会長 わたしたちの会社は、まだ「エコロジー」ということばが一般化していない30年前から再資源化の事業を続けているわけなんですが、最近ようやく、お宅の会社は面白いことをやっているね、と言われるようになってきたんですね。

 世の中でそろそろ、経済性優位で幸せになってないでしょ、というアラームが鳴っていると思うんですよ。次なる社会のニーズというものが求められている。

 経済性優位じゃなくなったらなんだと言ったら、昔はどういう物を所有するかが豊かさのポイントでしたけど、それが例えば「豊かな時間」をどう所有するかという市場になってきたんですよね。