マット安川 長く行政の現場に携わっていた稲村公望さんをお迎えして、衆院選直前の日本の政情分析をお話しいただきました。

安倍政権の大勝は外交面に新たな展望を開く

稲村 公望(いなむら・こうぼう)氏
中央大学大学院客員教授。鹿児島県徳之島出身の元郵政官僚。総務省大臣官房審議官を経て2003年日本郵政公社発足と同時に常務理事に就任、2005年退任。(撮影:前田せいめい、以下同)

稲村 投票日を前に自民党の大勝が予想されていますが、仮にそうなるのならそれはそれでいいことだと思います。

 中国や韓国、そしてアメリカの一部の勢力も、安倍政権は右傾化していると批判しています。しかし、選挙で勝利するということは国民が支持を寄せていることの証しです。安倍政権にしてみれば大きな大義名分を手にすることになるでしょう。

 政権に対してはあれこれと言えても、日本国民を敵に回すことは中国にも韓国にもアメリカにもできません。

 経済政策についてはこのまま第3の矢を放つことに危うさを感じますが、外交面に関して言えば、この選挙で大きく勝つことで新たな展望が開けるのではないかと思います。特に戦後の大きなポイントであるロシアとの関係が好転することを期待できるのではないか。ぜひ頑張ってほしいと思います。

新自由主義は終わった。みんなが豊かになれた70年代の政策を

 戦後体制が大きく揺らぐ中、市場原理主義、新自由主義を旨とする政策を続けるのか、改めるのかがひとつの焦点になっています。

 新自由主義というのは、一部の人たちをお金持ちにすれば、いずれ低所得者層にもカネが回っていくという発想です。言い換えるなら、東京だけが栄えればいい、東京でダメなら海外に出稼ぎに行けばいい、規制緩和と民営化をどんどん進めればうまくいく、といった考え方でもあります。

 しかし、この種の政策はうまくいきません。郵政民営化にしても言われていたほど良くなってはいないでしょう。あまり言いたくはありませんが、失敗に近いんじゃないかと思います。

 アメリカでは社会的な格差拡大を進める新自由主義的な考え方は、もはや実質的に終わっています。ウォールストリートの1%だけが儲けることに異を唱える勢力がどんどん増えているのは、そのことの表れでしょう。ヨーロッパでもそうしたトレンドは同様です。

 強い国というのは、外に対して強いことを言う国ではなく、国民一人ひとりがしっかりした生活ができる国です。だれもが豊かさを享受できる国こそが、強く安定した社会をつくることができる。

 そうした意味で、日本の70年代は理想的な時代だったと思います。当時、ソ連の外交官に会ったときなど、どちらが社会主義国か分からないと言われたものです。