マット安川 今回はメディア問題に取り組む西村幸祐さんを迎え、台湾映画「KANO」と台湾情勢についてお話しいただいたほか、今回のテロ人質事件で見えてきた日本の報道の問題点や課題をお伺いしました。

素晴らしい台湾映画「KANO」を多くの日本人に見てほしい

西村 幸祐(にしむら・こうゆう)氏
ジャーナリスト、作家。音楽雑誌編集などを経て、主にスポーツをテーマに作家、ジャーナリストとしての活動を開始。2002年の日韓ワールドカップ取材以降は拉致問題や歴史問題などに関する執筆活動を行い、2011年4月『JAPANISM』を創刊。『幻の黄金時代 オンリーイエスタデイ'80s』(祥伝社刊)など著書多数。(撮影:前田せいめい、以下同)

西村 現在、台湾映画の「KANO 1931海の向こうの甲子園」が公開されています。この映画は昨年、台湾で記録的なヒットとなりました。素晴らしい映画で、1人でも多くの日本人に見てもらいたいですね。

 KANO(かのう)とは、嘉義農林学校(現国立嘉義大学)の略称「嘉農」のことで、昭和6(1931)年に甲子園に出場した学校です。台湾は当時、日本の植民地だったので、代表校が甲子園に出場していたんです。

 これは実話を元にした映画だというところがすごいんです。嘉義農林学校の野球部は非常に弱くて、公式戦で1勝もしたことがなかった。そこに松山商業の監督だった近藤兵太郎という人が赴任して、ものすごいスパルタ指導をする。それで嘉義農林は台湾代表になり甲子園に初出場し、準優勝した。

 この映画には日本人が忘れたものが全部つまっています。近藤兵太郎さんの教え方は、非合理的な部分もあって、いまの野球部では受け入れられないところもあるだろうけれど、そういうものがチームを強くしたということと、それを台湾人が尊いと思っていることです。

 そうでなければこういう映画ができるはずがない。日本人が完全に忘れ去ったものを、台湾人がいま大切に思ってくれている。そして日本のそういう統治時代の遺産を掘り起こしてくれた。

 そういう忘れられたような話を台湾人がつくって、大ヒットした。それがいま日本で上映されているんです。

ひまわり学生運動でも「KANO」を上映

 この映画は台湾でムーブメントになり、それが昨年のひまわり学生運動も全部リンクしている。台湾の学生たちが国会を約1カ月間占拠しましたが、その場所で「KANO」は上映されているんです。

 日本公開の前にプロデューサーの魏徳聖さんにインタビューしたんですけど、思いは同じだったと僕に言ってくれましたよ。国会を占拠していた学生と思いは同じだったと。だから上映に喜んで協力したと。学生たちはみんな映画を見たんです。

 中国共産党との接近を嫌う人が、「ノー」を叩きつけたのが台湾の国会占拠だったわけです。それで台湾と中国の自由貿易協定は延期になった。その延長で昨年末、統一地方選で国民党は大敗北した。