1か月ほど前の10月中頃の話だが、ガスプロムのアレクセイ・ミレル社長が、ヴラジヴォストーク(ウラジオストク)でのLNG(液化天然ガス)生産プラント建設計画に触れ、この計画の代替案として、LNGの原料に予定されていたサハリンのガスをそのままパイプラインで中国へ持って行く可能性に言い及んだ。
"日本への供給をやめるかもしれない"発言にびっくり
その発言が、東シベリアから中国に向けたパイプライン「シベリアの力」によるガス輸出計画を承認する政府間協定調印のタイミングに重なり、かつ滞在先の中国で行われたものだから、ロシア・日本双方のLNG関係者はギョっとなった。
これまで10年以上の歳月を費やした挙句に、ロシアはようやく東シベリア・極東でのガスの生産計画とその販売先の目鼻をつけようというところまできていた。2つのガス源の1つである東シベリアからは、パイプラインで中国へ輸出することで露中双方が今年の5月に何とか合意している(途中、一部はロシア国内供給へ)。
もう1つのガス源となるサハリンからの新規生産分は、ヴラジヴォストークやサハリン内2カ所で計画されるLNG生産構想のどれにまず持っていくか ― これも2015年半ばまでにはロシア政府が決定する予定になっていた。
その中でもヴラジヴォストークでのLNG生産計画(年産1000万~1500万トン、2019年運開予定)は、ヴラジーミル(ウラジーミル)・プーチン大統領が推進する極東開発・産業化のシンボル的な存在でもある。そればかりではない。日本にとっては、サハリンと並んで地理的に最も近いLNGの対日供給基地になるという期待もある。
それを、推進母体となる企業の社長自らが「ひょっとしたらやめるかもしれない」などと言い出したのだから、ことは穏やかではない。
とんでもないことを口走ってくれたものだ、と何も知らされていなかったガスプロム社内の担当や、プラントの立地が予定される沿海州の関係者は、困惑しつつも「計画は予定通り進める」と火消しに走る。話が自分たちの失職や立地に伴う大きな経済効果に直結しているのだから、当たり前と言えば当たり前の反応だろう。
だが、右往左往の下々の動きをその後ガスプロムが抑えるでもなく、どうやらまだ決定事項でもないことをそのまま企業のトップが天真爛漫に口にした、という ― 日本ではあまりお目に懸れない ― いつものパターンだったようだ。
だが、なぜそんなことを述べたのか、となると、「あの社長のことだから」では済まされない面もある。露紙によれば、この発言の前に会談した相手の中国側から、サハリンのガスはヴラジヴォストークへ運んで液化するより、そのまま中国にパイプラインで輸出した方がロシアにとっても得だ、と言われたからだという。
ある米国の専門家は、ミレル発言の前後に滞在した北京で、中国側がもはやロシア・極東での新規のLNGの可能性はないと見ている由を知らされたという。その理由として、アジアのLNG市場の状況や、現在の対ロシア経済制裁に絡むLNG生産技術の移転問題が挙げられていた。