ウクライナ東部の武力紛争と、それを取り巻く関係諸国の動きは相も変わらず目まぐるしい。積み重なる連日のメディア報道に接していると、多数の無辜の犠牲者を出したマレーシア航空機撃墜事件ですら、不謹慎ながら随分と昔の話であったような錯覚に陥ってしまう。
ロシアへの制裁を強める西側諸国
この撃墜事件では犯人の特定がなされないままに、ロシア犯人説の米国と世論に押されてか、それまでロシアへの制裁に慎重だったEUも、特定人の入国禁止や資産凍結から一歩進んでロシアの金融・産業を制裁の対象にし始めた。
ロシアはウクライナ軍によるミサイル誤射やその戦闘機による撃墜説を持ち出すが、欧米はこれを奇想天外・荒唐無稽で片づけている。
万が一、実はロシアの言い分の方が正しかった、などということにでもなろうものなら、天地が引っ繰り返って欧米の政府の一つや二つくらい潰れかねないから(米国とて例外ではあるまい)、「悪いのはロシア」という結論は維持されるしかない。
他方では、事件以来の制裁合戦はもうやめにすべしという健全な考えから、ドイツやベラルーシはロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領の8月26日の会談を斡旋した。
ウクライナ東部の問題がこうした1回の首脳会談で片づくべくもないにせよ、彼の地で続いてきた武力紛争を鎮める方向でこれから双方が協議する出発点にはなった、と報じられ、多くが何となくほっとした気にさせられた。
ところが、それも束の間で、「ロシア軍がすでにウクライナ東部に軍を入れており、これは侵略だ」と会談直後にポロシェンコ大統領が声明を発表し、北大西洋条約機構(NATO)もこれを裏づける証拠写真らしきを公表して砲列を揃える。
そして、ロシアが紛争に直接手を出していることが明らかになった、かくなる上は、で米国もEUもさらなる対露制裁を実施することを明言し始めた。
まとまりかけた、と見える傍から話がぶち壊れるという、これまでのパターンの繰り返しである。アルベール・カミュも黄泉でさぞ呆れているだろう。
米国に言わせれば、過去1カ月近くの間にロシアは1000人単位の軍や兵器を動員してウクライナへの直接的な軍事介入を強めている。ロシアはこれまで同様に、ロシアの正規軍がウクライナ領内に侵攻した事実はないと主張する。