8月23日と24日に陸上自衛隊の「富士総合火力演習」が実施された。今年のテーマは昨年に引き続き「島嶼防衛」であった。
日本の防衛当局は、島嶼防衛とは「中国人民解放軍侵攻部隊から南西諸島を防衛する」ことが主たる想定事例であるとはもちろん公言していない。だが、日本でも中国でもアメリカでもこれは公然の常識と言えよう。
中国は尖閣諸島には侵攻しない
東シナ海や南シナ海での中国による極めて好戦的な軍事行動を踏まえて「島嶼防衛」に真正面から取り組む方向性は極めて適切である。ただし問題なのは、日本の多くのメディアが、島嶼防衛というと短絡的に尖閣諸島が中国によって占領されるケースを想定していることである。
確かに、中国軍当局が公に配布したコンピューターゲーム「光栄使命」(オンライン版も登場)には尖閣諸島魚釣島で自衛隊と人民解放軍が戦闘するものもある。だが、これはあくまで尖閣諸島の領有紛争を一般の人々に周知させるためのプロパガンダの一環であり、ゲーム自体も“お遊び”にすぎない。
尖閣諸島には軍事施設や警察施設をはじめ公的機関も民間施設もまったく存在しておらず、周辺海域に海上保安庁巡視船が常時警戒監視にあたっているほか、海上自衛隊軍艦もパトロールしているといった状況である。このような無人島を中国人民解放軍が占領するのは一見容易に思えるが、実は極めて困難である。
いくら無人島で守備隊も存在しないとはいえ、島嶼を占領するからには、周辺海域と空域での軍事的優勢を手にするとともに、尖閣諸島と中国浙江省沿岸域との間の補給帯を確保しなければならない。したがって、極めて大規模な戦力を投入しなければ、占領、そして占領維持はできないことになり、何の軍事施設も生活インフラも存在しない魚釣島を占領する軍事的価値はほとんど見いだせない。