「こういうグラフは読み方に慣れないと誤解をしてしまいますから、ちゃんと説明する必要がありますね」

 インペリアルカレッジ・ロンドンのジェリー・トマス教授が、福島県の甲状腺スクリーニングの結果のグラフを見せながら解説を始めました。

「・・・だから、スクリーニングによって向こう数十年に発症する甲状腺がんを1年の間に見つけてしまうということにもなります。このため、現在一見発症率が増えたように見えても、数年後にこの発症率は下がってくると予想しています。チェルノブイリでもそうでした」

画期的な地域シンポジウム

 このレクチャーが行われたのは、福島県の霊山町の山の中。甲状腺スクリーニングに関する地域シンポジウムが開かれた時の様子です*1。周囲の住民の方が主に参加され、総勢30~40人ほどの小さなシンポジウムでした。

 「日本に呼ばれるときはいつも東京ばかりだったので、こういう地域に出かけるいいチャンスになったわ。自然も楽しめるし・・・mosquito bite(蚊に刺されること)もね」

 地元の方との交流に、トマス教授はとても嬉しそうでした。

 この地域シンポジウムで画期的だったことが2点あります。

 1つは、海外の専門家に参加いただいたことです。パネリストにはジェリー・トマス教授、オブザーバーには英国原子力公社の名誉議長であり元弁護士でもあるバーバラ・ジャッジ氏が参加されました。

 トマス教授はチェルノブイリ事故の後、入国が解禁となった直後に現地に入り甲状腺癌のスクリーニングや遺伝子解析に携わられた方です。バーバラ氏は東京電力原子力改革監視委員会のメンバーでもあり、常に厳しい助言をされていることでも有名です。

 もう1つ画期的だったことは、このお二方を含め、女性の参加率が高かったことでしょう。パネリストだけ見ても、男性が3人、女性が3人と、半数が女性。

 このことについてはバーバラ氏が非常に喜んでいました。