ロシア黒海沿岸の保養地ソチで今年2月に五輪が開催されましたが、五輪終了と同時にウクライナ紛争が先鋭化しました。今秋にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領の訪日が予定されていたものの、7月17日に発生したウクライナ東部上空におけるマレーシア機MH17便撃墜事件を契機に、訪日は困難になった模様です。

第3期プーチン大統領の試練/ロシアのアキレス腱

ウクライナでマレーシア航空機撃墜か、295人全員死亡の情報

撃墜されたマレーシア航空機の残骸と乗客・搭乗員の遺体〔AFPBB News

 米国は撃墜直後、親露派武装勢力がロシアから供与された地対空ミサイル(SA11)により撃墜された可能性が高いとして、対露経済制裁強化案を打ち出しました。

 欧州(EU)側は従来、対露経済制裁においては慎重な構えを崩しませんでしたが、この撃墜事件を受け、7月29日には欧米が対露経済制裁強化策を発表。この中には、金融制裁やロシアの石油業界に対する資機材輸出一部禁輸措置などが含まれています。

 本稿では、今回のウクライナ紛争を巡り、今後の日露エネルギー関係を考えるうえで筆者が重要と考える下記3点をご報告したいと思います。

◆中国向けガス供給問題: 中国向けパイプライン天然ガス輸出価格合意(2014年5月21日)
◆ウクライナ向けガス問題: ウクライナ向けパイプラインガス供給停止(2014年6月16日)
◆対露経済制裁強化問題: ウクライナ東部上空にてマレーシア機撃墜(2014年7月17日)

 ロシアのアキレス腱、それは経済です。下記図1をご覧ください。プーチン大統領が誕生した2000年頃から油価が上がり始め、プーチン大統領は油価上昇の恩恵に浴しました。しかし油価高騰に支えられた経済構造は石油・ガス依存型経済から脱却できず、逆にますます依存度を高めています。

図1 ロシア産原油・石油製品・天然ガスの平均輸出価格推移

 経済活動の重要指標であるロシアのGDP(国内総生産)実質成長率は2013年の期首想定は3.7%でしたが、結果として1.3%に低下。さらに2014年も1%台と予測されていたGDP実質成長率は、7月17日のマレーシア機撃墜事件を受け、欧米の対露経済制裁が強化された場合、ゼロ成長あるいはマイナス成長の可能性も既に懸念されております。

露ガスプロムと中国CNPC/天然ガス価格合意(2014年5月21日)

 最初に、露・中間のパイプライン(P/L)天然ガス価格交渉の経緯を復習したいと思います。本件に関しては今年6月5日付JBPressにて詳細報告しておりますので、ご関心のある方はそちらをご参照ください。

 プーチン大統領は2006年3月21日に中国を訪問して、ロシアから中国向けに天然ガスを供給する構想を具体的に協議しました。なぜ2006年3月に本格的協議を始めたかと申せば、この年の1月にウクライナ問題が発生したことが最大の要因と思われます(同様問題が2009年1月にも発生)。

 プーチン大統領訪中時、ガスプロムと中国CNPCは「西ルート」と「東ルート」にて年間計680億m3の天然ガスを中国に供給する覚書に調印しました。

 東ルートとは、ガスプロムが東シベリア・極東の天然ガス鉱区を探鉱・開発して、中国までガスパイプライン(P/L)を建設し、ロシア産ガスを輸出する構想。西ルートとは、西シベリア産天然ガスをアルタイ経由中国にP/Lを建設して輸出する構想ですが、現状ではこの西ルート構想を巡る交渉は停滞しております。

 ガスプロムは中国CNPCと2006年から天然ガス価格交渉を開始しました。当初、ガスプロム側は当時の欧州向け天然ガス輸出価格230~250ドル/千m3を主張したのに対し、中国側の提示価格は125ドルと価格差が大きく、合意に至りませんでした。