
小さなガレージで生まれたパソコンメーカーのアップルを世界的ブランドに育てたスティーブ・ジョブズ。1985年に社内対立で退職したあとNeXTやピクサーを成功に導き、1997年にアップルへ戻るとiMac、iPod、iPhoneなど革新的な製品を次々と世に送り出した。本連載では『アップルはジョブズの「いたずら」から始まった』(井口耕二著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集し、周囲も驚く強烈な個性と奇抜な発想、揺るぎない情熱で世界を変えていったイノベーターの実像に迫る。
今回は、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの根本的な考え方の違い、アンドロイドOSが登場した際にジョブズが怒りをあらわにしたエピソードを紹介する。

■ 両雄がそれぞれの有用性を実証
ゲイツは、1995年発売のウィンドウズ95で大成功を収めた。その結果、互換性重視のオープン戦略がもてはやされるようになり、アップルのクローズド戦略は負け組の代名詞のように扱われた。その評価をひっくり返したのが、iPod、iPhone、iPadの大ヒットである。これらの製品を一緒に使うと、垂直統合のメリットを実感できる。
ホテルに泊まるとき、アップル製品同士ならパスワードを共有できるのに、ウィンドウズのパソコンは個別にWi-Fiを設定しなければならない。AirPodsなら複数のiPhoneやiPadがひとつであるかのように使えるのに、サードパーティーのイヤホンだと、いちいち接続を切り替えなければならない。一つひとつはちょっとしたことなのだが、小さなことの積み重ねが体験を大きく左右するのだ。
■ 相手を認めつつ信念は曲げず
アップルのヒット連発を見て、ゲイツも認識を改めたらしい。ジョブズが亡くなる数カ月前、本人に会ってこう伝えたという。
「普及するのは、オープンな水平モデルだと思っていた。でも統合された垂直モデルもすごいのだと君が示してくれた」
ジョブズもお返しをする。
「君のモデルもうまくいったじゃないか」
だがふたりとも、『スティーブ・ジョブズ』の著者ウォルター・アイザックソン相手には、一言追加している。