カスピ海が世界の耳目を集めています。

気候変動で湖の水温も上昇、NASA

人工衛星から見たカスピ海〔AFPBB News

 アゼルバイジャン共和国の首都バクーから南へ40キロほど離れたカスピ海沿岸に、世界最大級の原油・天然ガス陸上処理施設サンガチャル基地があります。このサンガチャル基地にて今年9月20日、カスピ海の天然ガスを欧州に輸出する「南エネルギー回廊」建設開始記念式典が開催されました。

 9月29日にはロシア南部の都市アストラハンにカスピ海沿岸5カ国の元首が集まり、カスピ海の領海画定問題を協議しました。

 本稿では、ウクライナ紛争がカスピ海周辺地域の天然資源、特に天然ガスの開発・輸送問題にどのような影響を与えているのか概観し、輸送路要衝の地はどこになり、これらの天然資源がどこに向かうようになるのか近未来を予測してみます。

プロローグ/対露経済制裁強化とカスピ海周辺地域の天然資源

 昨年秋より先鋭化したウクライナ紛争を巡り、欧米とロシアの対立が激化しています。ウクライナ東部上空における今年7月17日のマレーシア機撃墜事件を契機として、欧米の対露経済制裁は新しい局面に入り、ロシア経済の実態に悪影響が出始めました。

 欧州は40年以上の長きにわたり、旧ソ連邦と新生ロシア連邦から天然ガスをパイプライン(P/L)で輸入しています。P/Lによるロシアから欧州(非CIS諸国)向けロシア産天然ガスの約6割はウクライナ経由で輸送されていますが、ロシアは今年6月16日、ガス代金未払いを理由にウクライナ向け天然ガス供給を停止しました。

 今回の一連のウクライナ紛争と欧米による対露経済制裁措置強化を受け、カスピ海周辺地域で生産される天然資源、特に天然ガスが何処に輸出されるのか、にわかにクローズアップされることになりました。

 欧州はロシア産天然ガス依存度の軽減に努め、カスピ海の天然ガスを、ロシアを迂回して欧州に輸送する新規天然ガスP/L構築構想「南エネルギー回廊」を推進中です。今年9月20日には、上述のごとく同構想建設開始式典を開催しました。一方、ウクライナはP/L逆走による欧州側からの新規天然ガス輸入路の開拓に努めています。

 現在カスピ海周辺地域では原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発が進んでいますが、カスピ海には2つの問題があります。それは、カスピ海の法的地位問題と領海線未画定問題です。

ウクライナ情勢/今後の展開は?

カスピ海・黒海周地域

 今回のウクライナ紛争はそもそもウクライナの国内問題であり、ウクライナとロシアの問題は天然ガス価格と代金支払いを巡る経済問題でした。

 欧州とロシアは一衣帯水であり、経済的に相互依存しています。ゆえに、EU(特に独・仏)もロシアも相互経済関係悪化を望んでいませんでした。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ東部独立を望んでおらず、対抗措置としての対欧経済制裁措置発動も不本意であったと筆者は考えます。

 両者の関係が決定的に悪化した契機は、7月17日のマレーシア機撃墜事件後の欧米による対露経済制裁強化の動きでした。しかし、誰が撃墜したのかは、現時点でも不明です。