1. 経緯と総合評価
(1)憲法解釈変更は改憲だという意見があるが、元々現憲法は英米法としてできたものである。英米法はよく言えば柔軟、悪く言えば曖昧なものだから、どういう武力行使が可能か不可能かなどとは明記していない。
だから、一度は「個別的自衛権もない」と言っていた政府が「個別的自衛権はある」と解釈変更し、また、国際法上確立された自衛の3要件の第3「必要な限度に止めること」(相当性・緊急性)を引用し「核兵器が違憲とは断言できないが、この政権は核兵器を持たない」と言ったり、さらには「必要な限度」を勝手に「必要最小限度」という言葉に言い換えたりしてきたのである。
それを今になって「解釈変更は一切不可」と言い張る大陸法的論者に、私は賛成できない。ゆえに、今回政府が取った「状況の変化に応じた解釈変更」という手段を、私は認める。
(2)7年前、4事例研究で始まった安保法制懇の検討は集団的自衛権行使の問題に限定されているかに見えたが、今春以降、「グレーゾーン問題(栗栖発言問題)」や「集団安全保障問題」を優先すべし、との自衛官OBたちの意見を入れて幅広く流れを変えた。
5月15日に首相に提出された報告は懇談会構成員の佐瀬昌盛氏によれば「審議不十分ながらも、85点(高点)」とのことである。この意見に同意だが、特に、「国連PKO等や集団的安全保障措置への参加といった国際法上合法的な活動への憲法上の制約はないと解すべきである」の文言には感動を覚えた。
(3)この報告に対し、安倍晋三首相が「集団安全保障」問題で自ら後退した発言をしたのは残念であった。
一国平和主義を排し、国際協調に基づく積極的平和主義を貫くためには「集団安全保障」こそが中核となるべきであり、「集団的自衛権行使」はその補助手段に過ぎないからである。
しかし、こうしたことが国民全般に十分理解されていない現状での政治的判断だとすれば、これもまた認めることとしたい。
2. 与党(自民・公明)協議と15事例
(1)それぞれの党内事情を背景に、両党ともねばり強くよく協議を続けまとめたと評価したい。民主主義とはこういうものだと思う。
(2)協議の叩き台とされた15事例の中には私どもでも首を捻るものがあり、一般国民には理解が難しかったのではないかと思う。
この15事例は閣議決定には含められず、今後立法段階での検討事項となるのだろうが、これが金科玉条となり「これ以外は許されない」と決めつけないようにしてほしい。
グレーゾーン問題はポジティヴリストにしなくてはならないが、その他はすべてネガティヴリストにすべきだ、というのが私ども現場にいたものの意見である。
(3)国際海峡に敷設された機雷掃海で集団安全保障に関する武力行使問題が出てきて、その含みを残したことは良かったと思う。ホルムズ海峡での機雷掃海を集団的自衛権行使として実施することは元々無理な設定だと思う。