最近も中国は、海底石油の掘削を開始し、ベトナムと西沙諸島海域等において衝突を繰り返している。我が国に対しても、尖閣諸島の領有権に対する根拠を欠いた主張を強硬に主張し、対決姿勢を続けている。中国には以下のような弱点もあるが、今後10年程度は膨張圧力が続くと見るべきであろう。
1 中国の膨張圧力はいつまで続くか
中国のGDP(国内総生産)成長率は、2012年以降7%台が続き、鈍化の傾向が見られるようになっている。
また、中国人民銀行によれば、貧富格差を示すジニ係数が2010年には、0.61であったと伝えられるなど、極端な貧富格差が生じており、格差は、都市間、各省間でも、都市と農村、沿岸部と内陸部でも広がっている。
そのほかにも、党幹部の汚職と腐敗、投機目的の不動産投資の行き過ぎによるバブル崩壊、国営企業の非効率と闇金融の横行、大気・水質の悪化などの環境汚染、知的所有権の侵害など、解決困難な様々の課題に既に直面している。
それだけではなく、今から10年以後を見通せば、急速な少子高齢化とそれに伴う労働人口の減少、経済成長力の鈍化が確実に到来する。
しかし、投資が不動産や軍備増強に投じられてきたため、国民には被扶養人口を支えるだけの十分な富の蓄積はなく、公的な社会保障制度も未整備である。そのため、経済悪化と被扶養者を抱える貧困者の増大に伴い、社会不安が高まる恐れは大きい。
さらに、農地の劣化と水不足による食糧価格高騰、生活難などから、農村部での暴動が多発し、それが少数民族の反乱、宗教結社の武装闘争などを連鎖的に起こす可能性もある。そうなれば、武装警察や軍でも鎮圧できなくなり、共産党独裁政権が崩壊するといった事態も起こりかねない。
このような不安定要因を抱えている中国ではあるが、ここ10年以内に、膨張圧力がにわかに弱まり、あるいは内部崩壊に至る可能性も過大評価できない。
その理由として、まず第1に、共産党と人民解放軍の関係が旧ソ連と異なり、軍が伝統的に優位にあることが挙げられる。しかも、党指導部が代替わりするごとに、党の軍に対する指導力が弱まる傾向にある。
毛沢東や鄧小平は、革命世代であり、自ら八路軍を率いて戦い、人民中国を建国し、軍に対してもカリスマ的な指導力を持っていた。しかしその後の歴代指導者は、軍歴に乏しく、軍への指導力も弱く、軍に対して懐柔的な政策を取りがちになる。それが毎年2桁の軍事費増加を可能にしている背景要因の1つでもあろう。
また、軍事費を急増させることは必ずしも経済的に不合理な政策とは言えない。国内の民需の伸びが期待できない場合に、軍事力の増強によって内需を喚起し、余剰生産力と失業者を吸収して経済成長を維持し、恐慌を回避するという国家資本主義的な政策を取ることも可能である。
このような政策は、かつてナチス・ドイツにより採用された。ナチス・ドイツは軍備を急拡大させることにより、国内の失業問題を解決した。