5月5日、横須賀を母港とするアメリカ海軍第7艦隊旗艦「ブルーリッジ」が、中国とフィリピンが領有権紛争中の南シナ海東部スカボロー礁周辺海域を航行していたところ、2隻の中国海軍軍艦(駆逐艦とフリゲート)と遭遇した。

 中国は南シナ海で露骨に強硬姿勢を示しているうえ、2013年も南シナ海で中国軍艦がアメリカ海軍巡洋艦「カウペンス」(「米軍巡洋艦に中国揚陸艦が『突撃』、衝突も辞さない中国海軍の攻撃的方針」、JBpress)に体当たりをするがごとく急接近した記憶が新しいため、ブルーリッジ側には緊張が走った。

 しかしブルーリッジと中国海軍戦隊の間には何の交信もされず、何ごともなく両者は離れていった。

ブルーリッジとすれ違う中国軍艦。手前がフリゲート、遠方が駆逐艦(写真:米海軍艦載ヘリコプターより撮影)

中国に“やや配慮する”アメリカ

 この中国艦との遭遇に関して第7艦隊では、「ブルーリッジのスカボロー礁周辺海域航行は“FON -operation”ではなかった」との声明を発した。

 “FON-operation”(航行の自由・作戦)というのは、アメリカ国務省と国防総省が、海洋の権益線引きや島嶼の領有権を巡って紛争中の海域に軍艦を派遣して、「紛争当事国は国連海洋法条約をはじめとする国際法の原則に遵って違法な主張は取り下げて、海洋の安全航行を尊重しなければならない」というメッセージを暗示する示威的軍事作戦である。

 オバマ大統領が、日本やフィリピンを訪問し、中国の海洋侵攻政策を牽制するようなポーズを取った直後であったにもかかわらず、第7艦隊は「ブルーリッジの航行は、“FON-operation”ではなかった」といった公式声明をわざわざ発した。このことは、「中国側を刺激しないように」とのアメリカ政府による配慮の表れと見て取れる。