中国政府が国内各都市の市街監視を大幅に強め始めた。都市内部での政権に反対する動きをつかんで、早めに対処するためだが、背景としては社会の不安定や政権への不満がかつてなく高まったという現実がある。米国側ではこの動向を重視し、中国政府が監視用の高性能ビデオカメラなどを調達する際に米国企業が応じるべきか否かを論じるようになった。

 中国の国防予算の大幅増加はすでに国際的な懸念を生んでいるが、近年はその国防費を上回る額が国内の治安維持費に投入されてきた。この治安維持費は国内の秩序の維持にあたる人民武装警察の経費や、その他の関連政府機関による反政府活動家の動きや、チベット、ウイグルなどの少数民族の抵抗への監視、取り締まり、弾圧などに使われてきた。

 2012年度を見ると、国防費が合計約6700億人民元(8兆7000億円相当)、前年からの伸びが11.2%だったのに対し、治安維持費は7020億人民元(9兆1000億円)、前年からの伸びは11.5%だった。この治安維持費の大部分は共産党政権に対する一般の抗議や攻撃の情報収集、取り締まり、防止に向けられる。

 国内の治安維持にあたる人民武装警察が人民解放軍の一組織であり、しかも軍全体230万人のうちの160万人を占めるという実態はすでに広く知られている。中国当局が外敵よりも内部の脅威を懸念している事実の反映とも言えよう。

 中国当局はこの政策を「社会安定の維持」(維穏)と呼ぶ。安定という意味の中国語は「穏定」という言葉が使われ、その穏定の維持なので「維穏」と略される。そのための各都市での監視の強化策を「安全都市」とも呼ぶ。ただしこの「安全」というのは、第一義には政権にとっての安全ということだろう。

 そのために中国当局は、新たな都市市街地監視システムを築き始めた。街頭を四六時中撮影するビデオカメラ、インターネット上のサイバーパトロール、携帯電話を傍聴し、妨害できる管理システム、衛星利用のGPS(全地球測位システム)追跡網、バイオメトリック(生物測定)と呼ばれる指紋や人相、遺伝子などの特定による対人監視網など、ハイテクを駆使したシステムが構築され、強化されるという。その目的は、米側専門家が「ジョージ・オーウェルの世界」にもなぞらえる当局による市民の完全監視システムの達成である